それから三カ月後、村瀬は本郷大学の教壇に立って講義をしていた。朝倉には反対されたようだったが、ゴリ押しして若者の興味を喚起するような講義をしているつもりだった。
だが、学生たちの表情を見ると、どこか恨めしそうに見える。こちらに視線を向けていても焦点が定まらず呆然としている者。何かに落胆したようにうつむいて前方を見ようとしない者。村瀬の熱意は空回りしているようだった。
大学の授業はつまらないと相場が決まっている中でこんなにおもしろい講義をしているんだぞという自負があったが、学生たちとは何かが合致しないようだった。その原因は何だろう。それがわからないまま講義は終わった。
午後は今年度に卒業論文を書く学生と個別に面談して打ち合わせをすることになっていた。卒論はこれまでに書いたことがない分量で、学生を恐れさせるには十分だ。村瀬も学生の頃はこれまでの勉強の集大成をするんだという気概に燃え、恐れを乗り越えた。学生にもこの難関をせいぜい楽しんで乗り越えて欲しいと願った。
だが、この日それが楽しむとはほど遠いことだと痛感させられることになるとは知るよしもなかった。
研究室で待っていると、ドアをノックする音がして一人の学生が入室してきた。名前は鹿島美咲という。大学という雑然とした世界にふさわしくない凛とした雰囲気をまとった少女という印象だった。