――夕暮れ時、冒険者区、酒場。

 三階層を攻略したハル達は、報酬を受け取り、傷の手当をしてから酒場に来ていた。



 酒場には冒険者がごった返しており、殆どのテーブルが埋まっている。麦酒の香りが鼻をくすぐり、パイプの煙が漂っているのが見える。

シャイン

お!?
ハル、結構遅かったじゃん。

フィンクス

苦戦してたのか?
出て行くの
結構早かったのにな。

 混雑している店内で、リュウのパーティのテーブルから声が掛かる。ロココと同期のシャインとフィンクスだ。

ハル

いやぁ、
今回はキツかったっすよ。
骸骨の王様が強かったっす。

シャセツ

足引っ張ったんじゃないのか?

アデル

ハルが大活躍して
倒したんですよ、
シャセツさん。

シャセツ

多分……、
死にかけてたんだろ。

ダナン

俺様がブッ叩いてやったからな。

 そう言いながら、シャセツの前にある厚切りハムに手を伸ばすダナン。シャセツは何の反応も見せずそれを見送った。

ロココ

リュウさん達は
もう四階に降りてるんですよね?

リュウ

ああ。
流石に四階くらいになると
緊張感出てくるな。
今日は様子見にしといた。

ユフィ

どうだった?
そろそろ苦戦するんじゃない?

リュウ

それでもうちはまだまだ余力
残してる感じがするなぁ。
まぁ、油断出来ないけど。

シャイン

何言ってんの。
今まで苦戦した事なんて
殆どないじゃん。
シャラトが特攻。
(シャセツとタラトの事。
シャインが勝手に呼んでる)
んで残党を狩るだけだし。

フィンクス

確かに。
シェルナの医療技術が
勿体ないな。

 フィンクスが呼んだメンバー。それはロココ・シャイン・フィンクスと同期のシェルナ=ガブリエルだ。

シェルナ

誰も怪我しないのが
一番だよ。

 シェルナはとても冒険者とは思えない小柄な身体で、長い金髪をツインテールにしている。リュウパーティの回復役である。

ジュピター

オイラ達はアデルに
面倒掛けっぱなしだからな。

アデル

私はそれが役目ですから当然です。
それに比べて、
シェルナは棒術も使えるから
本当に貴重な戦力だと思います。

 メナを除くハル達同期八人と、フィンクス達同期四人が合流して、今の2パーティがある。

 アデルとシェルナは特に仲良しで、一緒に行動する事が多くなっていた。

シェルナ

何言ってんのアデル。
皆から聞くアデルの
応急手当やその後の処置は、
速くて正確でピカイチだって
聞くよぉ~。

アデル

ありがとうシェルナ。
でも私なんかまだまだ。

リュウ

あ~、
そう言えば導師になる方法
分かったのか?

アデル

それがまだ詳しくは……
地元の教会に居る導師様には
詳しい内容が聞けなかったので。

 声を濁らせ不安の色を瞳に写すアデル。

シェルナ

えっ!?
導師になるのは
五階層の攻略だよ。
って、真導……

 アデルが知らない事に驚いたシェルナは、言葉を途中で止めた。

アデル

え!!

フィンクス

へぇ~シェルナ
意外に詳しいな。

シャイン

しんど……?

シェルナ

あいやいやいや、
迷宮攻略も
しんどいなーって。
あー、え~っと
お腹減ったぁ~。

タラト

くさあるぞ、くえ。

 慌てた様子で喋ったシェルナは、タラトが勧めるサラダを自分の皿に盛り始める。勿論タラトは肉を取られたくないのでサラダを勧めたのだ。テーブルについてから食い続けているハルに負けじと、肉にかぶり付いている。

シェルナ

おいしぃ~。
私このサラダ大好き。

シャイン

あんたこの庶民的な味の
サラダ好きね。

 レオニール地方特産の野菜を多く使用したサラダ。単純な味だが、日持ちが良く何よりも安価だ。誰もが口にした事があるそのサラダを、シェルナは本当に美味しそうに口に運んでいた。

 ~兆章~     82、庶民の味

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