正蔵さんの葬式が終わってから二日経って、時屋さんから連絡が来た。
どうですか、心は決まりましたか?
おや、なぜ私が決心する必要が?
契約を先延ばしにしたのは、時屋さん、貴方じゃないですか
…………随分な口を利くようになりましたね
正蔵さんの葬式が終わってから二日経って、時屋さんから連絡が来た。
彼は電話を使わない。
なんと、猫のシャルが封筒を持って来たのだ。
……方法なんてわからない。知りたくもなかった。
改めて店に来ると、正蔵さんの死を悲しむことを放棄してしまったような気がして、自分のことがひどく冷たい人間のように思えてならなかった。
それでもいいと、決めた心をもう一度、確認して。
僕は今、この人間の形をしたなにものかと、向き合っている。
もう一度、契約内容を確認させていただいても?
もちろん、構いませんよ
僕は貴方に、僕がこれまで生きてきた時間から、正蔵さんが舞花と再会するのに必要な分だけの時間を、買っていただきたいと思っています
僕が立ち会えなかった正蔵さんの最後は、存外穏やかだったと葬式の後で聴いた。
頼んだよ、由宇君
--------そんな言葉と共に、息を引き取った、とも。
なにを、頼まれたのか。
……それはきっと、すべてだ。
花楓さんのこと、心残りと言っていた、舞花ちゃんのこと。
そして、時間屋とのこと。
今となってはもう、確かめようのないことではあるが。
……いいんですね、ほんとうに、買ってしまって
もちろんです
確かめようがないなら、もう、思うままに動くしかない。
最善手を取りながら、なにを頼まれていたとしても正蔵さんに安心してもらえるように、生きていくしかない。
それでは、貴方の人生……
十五年分を、買い取らせていただきます
対価は当然、支払っていただけますよね?
当然です、あまり侮辱なさらぬよう
お代は十五年後、二ノ宮舞花さんが、十七になる年に
ひとつ呼吸を置き、店主は一切表情を変えず、続けた。
それまでゆっくり、お考え下さい
十五年後、あなたが今の年齢にもう一度達したとき、それ以降の人生の保証を、何処からいただくか
これから十五年間、人生を売る、その意味について、ひとりっきりで考え続けてくださいませ、羽邑由宇様
第二十五話へ、続く。