―― ずは……かずは ―― 和葉っ!

和葉は 

として、隣を歩くジャンニーニ・
略して”ジャン”を見上げた。

和葉

な、なに?

ジャンニーニ

やっぱりさっきから変だぞ。6時限目の後で何かあったのか?

和葉

ううん、何もないって言ったじゃん ―― あ、あのお店じゃない?レストランテ《ボーノ》って看板出てる

ジャンニーニ

あ、あぁ……

これから2人は、毎年の秋恒例のオータムパーティーに
参加する。

その席には、エディのようOB達も出席予定だ。

ブブブ……メールの着信
【デューク・ウォートン】

この世界でもスマホ・携帯・インターネットは
若者の必須アイテムだ。

初めての販売から僅か2年足らずで、末端の平民にまで
ほぼ100%普及している。

デューク・ウォートンは和葉らの部活顧問で、
この学校の卒業生だ。そして ――
それまでなかなか認可されなかった”軽音楽部”を
正規の部活として理事達に認めさせた功労者でも
ある。

あ、ウォートン先輩も今年は来たんだぁ。
受信メールを開くと ――、

”和葉達はまだですか?
 席……なくなりそうなんだけど ”

……え
だって、まだ30分も前

和葉

ね、ジャン ―― 
 早くしないと席なくなっちゃうって、
 デューク先輩が

ジャンニーニ

あの人は何にしてもせっかちだからな

こんなに皆……張り切って来るなんて
思わなかった

和葉

遅くなり……

わあっ!! 和葉。ジャンニーニ! 

待ってたんだよっ――!!

何だろう? 
この異様な盛り上がり……気後れしそう。

ステフ

さぁさぁ、お2人さんはこちらへどうぞぉ~、
 和葉はこっち、ジャンはこっちねー

やっぱりこういう賑やかな席を仕切っていたのは、
宴会命・飲み会大好き人間のアルだった。

このやたら盛り上がった状態に流されて
ジャンと2人、促されるまま席に座らせられた。

***  ***  ***

レストランに集まった気心の知れた面々に。

所々から笑い声や騒ぎ声が聞こえる。

皆、お酒も進んで程よく落ち着きを取り戻した頃――、

今まで私の隣にいた女子が男子と入れ替わった。

デューク

……お久しぶり和葉

和葉

―― うん、久しぶりだねデューク先輩。さっきはメールありがとう

ほっこり笑う彼・デュークは、
お父さんの不慮の事故死というアクシデントさえ
なければ一番仲の良かった先輩。

そして、いよいよ実家へ帰るといった数時間前、
町外れのカフェへ呼び出されて ――。

 ====   ====

デューク

お、俺と、け、結婚を前提として付き合って下さいっ


 ====   ====

告白された。
16年間の長い人生に於いて初めての告白は、
返事に迷っている余裕なんかない、性急なものだった。

とにかく彼は急いでいた ―― なんでも、
実家へ帰ればすぐに許嫁と婚約させられそうだから、
って。

そりゃあ彼だって、散々悩んだのかもしれないけど、
自分が家業を継ぐ為実家へ帰るって間際に
言わなくてもいいじゃん。

結局和葉はデュークのとても不安そうに揺らぐ瞳を
チラチラと見ながら、か細い声で

和葉

――ごめんなさい


って、言うのがやっとだった。

 

デューク

受験勉強の方はどう?

和葉

うん……まぁ、ぼちぼちとやってる。先輩は?

デューク

ボクは相変わらずだよ。大女将である祖母は、家業を継げって人を呼びつけた割には物凄く手厳しくてね、いつもダメ出しされてる


   
 
――ふと

何故か? 

彼の視線は離れた席のエディに向けられて
いて。

エディの方もその視線を真っ向から受け止め、
静かにかち合ったその視線からは
好意的なものが感じられないって言うか、
パチパチと静電気でも起きそうな緊迫感があって……。

和葉

―― 先輩?

デューク

実は、許嫁とはあれから2人でよく話し合って、結婚を前提とした関係は解消したんだ

和葉

えっ ――

デューク

だから、俺の時間はまだ……あの時のまま止まってる

―― あの時のままって、
そんなこと言われたって……

デューク

やっぱり俺だって、失恋の疵そういつまでも引きずっていくのは嫌だから、仕事に打ち込む事でキミを忘れようとした。でも、結局忘れられなかった……ずっと……ずっと、好きだったから

羽柴 和葉 ―― 
この世界での名前は 和葉・ランカスター、
もうすぐ17才にして、初めてのモテ期到来ですか?!

先輩……

デューク

あ、だった、なんてつい過去形で話しちゃったけど、今でもキミの事が好きだよ

――すがるような目
冗談じゃ……じゃないみたいだね。

グラスに残ってる飲み物を一気に煽る。

はぁ~~……つよ ――っ。
喉が……焼けるみたいに熱い

ねぇ、和葉ちゃん(ちゅわぁぁん)、キミ、エディんちに居候してるってほんとー?もしかしてー、キミが噂の候補者様だったりしてぇ~

そう聞いてきたのは3年の男子で名前は知らない。
でも彼は俺をあんな風に馴れ馴れしく呼んだって事は
何処かで挨拶くらいはした事があるのかも知れない。

和葉

えっ……(そんなこと一体どこから……)

因みに、エディが自宅であるランカスター城へ自分の
正室候補を何人か住まわせているって事は、
だいたいの人々も知ってるらしいが、それら候補者達の
パーソナルデータは伯爵家のトップシークレットで。
従って俺が候補者の1人って事もバレてはいないハズ。

ねぇねぇ、和葉ちゃんー。おせーてよ。キミも他の連中と同んなじでエディが本命なのぉ~?

ほとほと困って視線を彷徨わせたら、反対側の端っこの
席でほほ杖をついたエディの真っ直ぐな目にぶつかって

一瞬、言葉が出なかった

ねぇ、ねぇおせーてよ

……っ……

こんな質問は今の俺にとって一番、厄介なモノ。

【違いますよ】

たった、このひと言でいいのに、
言葉が出ない。

近くの席のステファニー(ステフ)やコンラッド、
デューク先輩までも興味深そうに見てる!

何か、言わなきゃ……でも ―― 何て言う……?

頭の中で必死に自問自答を繰り返す。

『……かず? あんたもしかして ――』

勘ぐるようなステフの声に、
バレた!……そう思った瞬間。

『あ~、お前らまーた和葉からかって遊んでん
 のかぁ?』

……っ!!

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