何だか悲しい夢を見た気がした。

ううぅ……

 ヒルメは少しだけ涙が浮かんだまぶたを弱く両手で擦った。

 あくびをひとつ。

 それだけでもう、その涙が夢のものだったのか眠気によるものだったのかわからなくなる。これで良し。

 もぞもぞと布団を蹴飛ばしながら伸びをする。

 ベッドの大きさに彼女の身長は足りなくて、手足を伸ばしてすら端まで届かず、当然ながら落ちるはずもない。

学校……行きたくないです

 だからヒルメは安心しきって、欲望のままに。ベッドの上でゴロゴロと悶始める。

興が乗ってきて、スプリング性能を最大限に活かして魚のように飛び跳ね始めながら、タイミングに合わせて叫ぶ。

学校!!行きたく!!な――っつわああああ!!!

 方向感覚見境なく暴れれば、当然のことながら落ちた。

 ベッドの横に。

痛いです!!痛いです!!

 かなり大きな音がしたけれど、気絶もせずに悲しみ任せに吐き出された声が響き渡る。

ヒルメはそこそこ丈夫に作られた頭の硬さに自信を新たにした。そんな前向きさでも捏造しないと自分のバカさ加減に涙が溢れそうだった。

というより、すでに半泣きだったのだけど。

 やがて、声に出すほどの痛みでもなくなってくる。

痛いっ……です!

 程よく騒ぎ切った所で掛け声とともに起き上がる。

どうせ騒いでも家族の者は誰も来ないから。

ふんふふんふん、いったいなぁ~。じょーだんじゃなく、いったいなぁ

 鼻歌混じりに階下に降り始める。

居間には朝食がすでに用意されているはずだ。

それをお腹に詰めて、登校する。

あれだけ打ち付けた割りに、惜しくもこれからの予定はばっちり頭のなかに残っている。

めんどくさいな~いったいなぁ

 そのでたらめなメロディに思ったことがどんどん混ざっていく。

 級友をして可愛くて変な子というより不気味で頭の弱い子と称させるヒルメのことだ。

本人としては不満なその評はいかがだろう。

今ここに十人いれば九人くらいは首肯するのではないだろうか。

いただきます

 誰もいない空間に向けて食への感謝を唱えながら、特に何かの考えがあったわけでもないけど、少しだけ思ってしまった。

 そういえば痛いの飛んでけって、昔はやってもらったな。

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