幸路之介

黒兼丸殿。
去年の優勝者かなんだか知りませんが、今年の優勝はこの私が頂きますぞ。

黒兼丸?

刀が泣いている・・・。
そうかそうか、お前はこいつを切りたくないのか。

花蓮

お、お兄さん。
あの黒兼丸って人泣いてるよ!?

どうしたんでしょうか?

幸路之介

ん?
お主、私の話を聞いているのか?

黒兼丸?

あぁ、すまないね…。
俺のせいでお前にまで迷惑をかけて…。
この大会に出るのはあの方の命(メイ)なんだよ…。
あぁ、本当にすまない、生きててすまない…。

幸路之介

おい、聞いてるのかと言っているんだ。

黒兼丸?

聞こえないの?

幸路之介

っ・・・・。

唐突に
刀に語りかけていた黒兼丸の目がぎょろり、
と幸路之介に向けられる。


その瞬間に先ほどまで騒いでいた観客もしん、
と静まりかえった。

黒兼丸?

この子の声が、聞こえないの?

幸路之介

あ?
あぁ。

黒兼丸?

ああああああ!!!!
なんて無能!!!
なんて虫けら!!!!!
こいつにはお前の声が聞こえていない!!!

幸路之介

ひっ・・・!!

黒兼丸からはただならぬ殺気が放たれ始める。

黒兼丸?

屑だ…!!!!
俺以上のゴミ虫だ!!!!
いらない、いらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらないいらない。

刹那

幸路之介

・・・え?

それは一瞬



瞬きをする間にも満たない一瞬



突風の如く突き抜けた黒兼丸はいつの間にやら幸路之介の後ろに立っていた。

地面に描く斑模様ー


その画材が幸路之介の血だと気づくころには、幸路之介は地面に倒れ伏せていた。

そして、間をおいての歓声。

はぇえ、さすが黒兼丸様だあああああ!!!

私まったく見えなかったわ…!!!

今年の優勝も黒兼丸様で間違いないな…!!!!

試合終了のゴングがなり、腹部に致命傷をおった幸路之介は大会を取り仕切る役人たちに運ばれてゆく。

黒兼丸?

【黒兼丸】…、皆がお前のことを褒めているよ……。
あぁ、でもすまないね。
お前はあれを斬りたくなかったんだよね……、あんなゴミ屑、お前の糧とするのに相応しくなかったね…、うん、うん。

腹部を狙ったかのように見せてますが…あれは完全に心臓を狙っての一閃。
相手を殺す気だったようですね…。

花蓮

え、そうなの!?

ゆっくりと細められる斎の瞳。

えぇ、彼は刀を・・・。

煌炎

刀をぶぁーっと横に薙ぎ払うときに手首に捻りを加えて、びみょーに切り口が上にずれるようにしてんなぁ。

決め台詞のように斎が言おうとしたところをうまく掻っ攫ったその主は

煌炎様!
起きてたんですか!??

煌炎

こんな豚がピーピー鳴いてるようなうるさいところじゃ、目が嫌でも覚めるってもんだろ。なぁ?

同意を求めないで下さい!!!
ま、周りが恐ろしい!!

煌炎

あ、ここにも豚が一頭。
ぶひひ。

私は違います!!

煌炎

おい、ちびガキ。
次の試合は誰だよ。

花蓮

はー・・・、お兄さん。
いい加減ちびガキだのクソガキだのって呼ぶのやめてよ!
私には花蓮って名前があるの!!

煌炎

ほーう、おたくこそおれのこと『お兄さんー』なんて呼んでるじゃねぇか。
おれぁちびガキの兄貴なんかじゃねぇぞ?

花蓮

ぐぬっ…!
じゃあ煌炎さん!!
花恋って呼んで下さい。

煌炎

気が向いたら?

花蓮

それ絶対気が向かないやつ!!

煌炎

ポニー、次の試合は?

花蓮

・・・聞いてないし。

長年ポニーやらテールやらと呼ばれた斎は諦めて下さいと言わんばかりの顔を花蓮に向け、煌炎に次の対戦人物を告げる。

Aブロックは一試合終わったので、次はBブロックです。
次は・・・・・風虎様が出られるようです。

煌炎

・・・へぇ、そうかい。

微かな笑いを浮かべると煌炎は静かに会場に目を移したのだった。

pagetop