ジャグラスの兵達にも聞こえる

突撃指令だったが、

相手はまだ戦闘態勢に入っていない。



無茶苦茶に見える突撃だが、

相手の隙を突く合理性も

兼ね備えているのも確かだった。

ギュダ

姫をお護りしろ!!

二百の敵兵に突っ込むレジーナ。

その主君の背中を追い掛けるギュダは、

どの兵士よりも早かった。



先陣を切ったのはレジーナとガンツ。



苛烈な二人の奇襲は

敵歩兵を次々と跳ね飛ばし

道を切り開いていく。



それに続き、雪崩れ込むように

兵士が突撃する。

雄叫びを上げ、何倍もの敵陣に攻め込む。

35名という少数のレジーナ達は

間違いなく死地に飛び込んだのだ。

ガンツ

って、どいつが
ジャグラスなんだ。

ギュダ

この状況では敵将を
討つしかない。
急ぎ見付けるのだ!

レジーナ

それらしき奴が
おらんぞ。
どこだ?
どこから軍を指揮している。

大抵の場合、軍の長たるものは

一際華美な武具を装備して

目立つものであるが

それらしい人物は見当たらない。





レジーナ達にとってそれは誤算だった。





ジャグラスを探すギュダの視界に、

民家の玄関から顔を出す少年が映る。

チナ村の少年

お前達、うちの敷地に
入ってくるんじゃない!

敵兵士

何っ!!
ガキのくせに
偉そうな口をききやがって!

少年は敵兵士の容赦ない平手打ちを

バックステップでかわした。



と同時に、レジーナの兵が

少年と敵兵士の間に割って入った。



そこからは庭先での格闘戦が始まる。

そして両軍数名の兵士が入り乱れ戦ったが、

遂には少年の家先から敵兵を追い払った。

チナ村の少年

あんた達兵士に対する
礼なんてないぞ。
しかしたったあれだけの数で
こいつらに喧嘩売ったのか?

チナ村の少年

あん? ジャグラス?
あのちっこい奴か?
……なるほど、大将狙いか。

少年は意外にも一瞬で戦況を読み取っており

レジーナ軍の苦境を把握したようだった。



しかもジャグラスを見た事があるようで、

こともあろうか『ちっこい奴と』と見下した。

チナ村の少年

前に見える赤い屋根は
外からでも比較的簡単に登れる。
そこから見下ろせば
直ぐに分かるはずだ。

チナ村の少年

まあ、あれだけの兵士を
掻い潜っていけるかは
あやしいけどな。

少年の情報は、兵士間の伝達で

直ぐ全軍に伝わった。



そして赤い屋根の家付近にいた

兵士が動き出す。

ギュダ

まずい、
敵兵もこちらの動きに
合わせてきたぞ。

ガンツ

トトリオン!
骨は拾ってやる。
男前なとこ見せてくれよ!

ギュダ

彼の者の道を
切り開け!

ギュダの投げナイフが、

的確に敵兵二体に吸い込まれる。

それはトトリオンと呼ばれた兵士の

眼前にいた敵だった。



トトリオンは次に襲い掛かってくる

敵兵をかわし一気に駆け抜ける。

しかし、

屋根の手前で構える屈強そうな敵兵に

盾を振り回され、地面に倒される。

続けざまに剣を振り下ろされたが

砂の目つぶしで反撃。

直ぐさま屈強な敵兵を踏み台にして

屋根に駆けあがった。





見下ろす戦場には

何人もの敵味方が倒れている。

その中で敵兵深くにいる小柄な男を発見した。

兵士

レジーナ様の
右後方です!!

ジャグラスを見付けた声と共に

レジーナと全軍が一斉に標的を変えた。



自らジャグラスを討ちとろうと

何人かの兵士が殺到するも

敵兵が守勢に回り、

盾の壁を打ち破れなかった。

レジーナ

貴様がジャグラスか?
なんだ何とも頼りない奴だ。

レジーナが遠目から残念そうな声を漏らす。

馬上から見下ろす男は

誰よりも小柄な中年だったからだ。

敵兵士

黙れ! 小娘!

敵兵士

ジャグラス様を
馬鹿にするとは許せん!

敵兵士

ジャグラス様、時間を稼げば
奴等を包囲出来ます。
我らにお任せを。

レジーナ

ほぉ、存外慕われて
おるようだな。
ならば……

レジーナは真っ直ぐと

ジャグラスに視線を送り伝えた。

レジーナ

私と一騎打ちだ。
勝った方の言う事を聞く。
何よりも分かり易いし、
よもやこのような小娘が
怖くはあるまい。

レジーナの挑発とも言える申し出は

全兵士の手を止めさせた。



全視線が一点に集まる。



その視線の先の男は

鋭い眼光をぎギラつかせ、

前に力強く進み出る。



野獣の如きその気迫は

レジーナの戦いぶりを見ていたにも関わらず

一歩たりとも怖気づいたりはしていない。

ジャグラス

我が剣は女人を切る為にない。
だがお前を武人と認めた上で
その申し出を受けてやろう。

ジャグラスの鞘から

陽光を反射する剣が抜かれ、

一騎打ちの火蓋は切って落とされた。



両軍の命運は

お互いの長が握った。



自分の主の戦いを見守ろうと

兵が集まる。



レジーナは

傷付き死んでいった者に報いる為、

国宝剣『ジュヅヴァ』を構えた。

チナ村での戦死者

アスカワン





べベット





ナノーネ





その他7名、計10名

勇敢な突撃を道標に残し

永眠

pagetop