また、駄目だった。

また、駄目だった。

––––––––––また、私の評価が下がる。

このまま失敗続きの人生を生きていくなんて、嫌だ。

あいつさえ、あいつさえ、いなければ。

闇夜の中で嫉妬に狂う少女。

そんな少女とは比べ物にならないくらい、完璧な少女が居た。

……その少女は、才色兼備の。

シクラメン

鏡をみる。

そこに映るのは、電気の点いていない部屋に差し込む月明かりにぼんやり浮かぶ、醜い顔だけ。

少女は鏡を右手に持ち、左手には写真を持っていた。

それは憎い憎い、自分とは対照的な少女の笑顔が写るものだった。

どうしてこんなに違うの? 誕生日も同じ、血液型も同じなのに……

少女は、「平等」という言葉が大嫌いだった。

人間は生まれながらにして––––––––––––

少女は笑う。

闇夜の中、月明かりの下、ひそかに、静かに、嫉妬心を燃やす。

その顔は嫉妬に歪む。

それでも、と、少女は口角を上げ、笑顔を造ろうとした。

……しかし、努力の甲斐なく、その顔はさらに醜くなる。

そのたびに、少女の嫉妬心は肥大化していく。

少女の顔に浮かぶ醜さを飲み込み、恨みを飲み込み、どんどん、どんどん、膨らんでいく。

そんなに顔を歪めてたら美しくなんかなれやしないよ

突然、声。

カーテンのない窓のほうで、なにかが蠢いた。

差し込む月明かりが、その存在を浮かび上がらせる。

誰よ

誰でもない

意味わかんない。おちょくってるの?

おちょくる? 
お前なんかおちょくってもこっちにはなんの得もない

……それなら、なにしに来たわけ?

まあ、その醜い顔をどうにかしてあげようかな、とね

……どういうことよ

もちろん見返りは要求する。そうだな、その写真のヤツがいい

なにそれ。一体なんなの?

わからないヤツだな

ああ、だから、劣等感やら嫉妬に狂ってるんだねえ

あんたに美しい顔を与えてやる代わりに、その写真のヤツをくれって言ってるんだよ

……本当に!? 私が美人になれるの!?

嘘ついたってこっちにはなんの得もない

月明かりで、そのなにものかの表情はわからない。

ただ、少女には、希望の光のようにみえた。

どうする? 欲しいか、顔が

欲しい

即答した少女の顔は、欲望に歪んでいた。

燻っていた嫉妬が一瞬にして欲望に移り変わる。

じゃ、ここにソイツを連れて来い

わかった

少女は立ち上がり、部屋を出た。

そして隣の部屋にいる少女の–––––––––––双子の部屋をノックした。

出てきて

なあに? 今忙しいんだけど

はやく

のそのそと出てきた片われの腕を引っ張り、少女は部屋へ押し込んだ。

なんなのよ。怖い怖い

連れてきた。はやく頂戴よ、美しい顔を

はあ? 何言ってんの?

はいはい、急かさなくても、今やるよ

それじゃあ、あんたには、消えてもらおう

突然のパチンッという音の後、少女の片われの姿が消えた。

それで、顔は?

…………っふ、ふふっ

これは、嫉妬に狂ったあんたへの罰だ

その嫉妬心のために判断力を失ったあんたは、俺に騙されたんだよ

え!? ちょっと、どういうことなのよ、待ちなさいよ!! 

少女は、片割れを欲していたその「なにか」に、協力させられていただけだった。

嫉妬と恨みが膨らみ、少女はついにその狂った心を抑えられなくなった。

少女は息絶えた。

後に残ったのは、月明かりの美しさと、吹く風に揺れるカーテン––––––––––

––––––––––そして、少女の抜け殻だけ。

あいつも死んじまったか

でもまあ、あいつはマズそうだし、要らないや

少女を連れ去った「なにか」は舌なめずりをし、空っぽになった少女を見下ろした。

馬鹿だなあ、あんなに狂っちゃって

自分と向き合えないヤツは遅かれ早かれああなっちゃうけどさ……

……それにしてもこの女、見た目ほどウマくなかったな

ま、いいや。腹の足しにはなった

そうして、「なにか」は笑い声を空に響かせる。

高らかな笑い声は、息絶えた少女の、部屋で嫉妬につぶされた少女の中に反響した––––––––––。

シクラメン
花言葉【嫉妬】
Fin.

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