僕が生まれる何十年も前に、それはもうこの世に誕生していた。
一度それを手にすれば、ぼくは遠い異世界へいける。
一度それを手にすれば、ぼくは世界を救う勇者にも、世界を滅ぼす悪党にも、この現実とは全く違う世界の住人になれる。
僕が生まれる何十年も前に、それはもうこの世に誕生していた。
一度それを手にすれば、ぼくは遠い異世界へいける。
一度それを手にすれば、ぼくは世界を救う勇者にも、世界を滅ぼす悪党にも、この現実とは全く違う世界の住人になれる。
ぼくの一生を全てそれに使ったとしても、きっと全てを経験することはできないくらい、この世界にたくさんそれは存在していて、
ぼくはそれを心の底から愛している
それの名前はテレビゲーム。
これはそんなテレビゲームを巡る、「ぼくたち」の物語だ。
4月の終わり、放課後。午後6時過ぎ頃。
ぼく、南颯太郎(みなみそうたろう)は、旧校舎の一室にいた。
ぼくがこの春から通っている高校には、敷地の外れに、老朽化が進んで使用されなくなった旧校舎がある。
もちろん、入り口には鍵がかかっていて、生徒が立ち入ることはできなくなっているのだが、入学して早々、ぼくは旧校舎の中に入る抜け道を見つけてしまった。
それからは、こうして放課後になると、人目を盗んでは旧校舎の教室に忍び込んでいるのだ。
へへへ、後少しでエンディングだ
教室の中には、古ぼけたブラウン管テレビが一台と、テレビゲーム機が置かれている。
よーし、とりあえずラスボスに挑戦する前にセーブしておくか。
もちろん、学校にテレビやゲーム機やらがあるはずもなく、これは全部ぼくが自宅からこっそり持ち込んだものだ。
旧校舎に入れるようになってから、ぼくは毎日放課後に、こうして持ち込んだゲームで遊んでいる。
放課後ゲーム部なんて心の中で呼んでいる、ぼくだけが加入している秘密の部活だ。
今プレイしているゲームはとある大手ゲーム会社が1995年に発売したRPG…
当時として、既存のRPGとは一線を画すグラフィック……
フィールドと戦闘画面がシームレスに移行する斬新なシステム……
過去、現在、未来と時空を超えて大冒険を繰り広げる、規格外のスケールを誇る壮大なシナリオ……
そして何より特筆すべきはその話題性!
国民的2大RPGの生みの親であるゲームデザイナー達と世界に誇る有名漫画家がタッグを組んだ、当時としては全ゲーマーが驚愕したであろうドリームチームによって生み出された歴史的名作なのだ!!!
もう何回もクリアしているんだけど、プレイするたびにワクワクするんだよな
このゲームが生まれた時、当然ぼくはまだ生まれてもいない。
このゲームを今現在の基準で分類すると、レトロゲームの枠に位置付けられることだろう。
昔のゲームだから、現在、巷で発売されてる最新ゲームと比較すると当然グラフィックは及ばない。
それでもぼくは、このゲームを始めてプレイしたときの興奮を忘れない。
ぼくはレトロゲームが好きなんだ。
ゲームのグラフィック、システムが大きく変化したゲームの歴史の変革期において現れた様々なゲームたち。
それらはぼくの心を捉えては決して離さないのだ。
よし、準備完了だ!
では改めて…ラスボスに挑戦だぜ!
その時、ぼくの後ろで物音がした。これは、扉が開く音か。
やべえ、先生か…!?
慌ててぼくが後ろを振り返ると、
……
そこには一人の少女が立っていた。