第3幕
駆け抜けろ、
C.ザ・リッパー!!
後編

多少混乱している頭を冷やしつつ、私は薄暗い地下道を進んでいた。目的のポイントまであと少し…

キャラメリゼ

それにしても…さっきの男…

キャラメリゼ

っ…まだ痛むな…しばらく引かないもしれない…

くっきりと手の痕が残っている左手首をさすり、先程のことを思い返す…

キャラメリゼ

あの男…何者だったんだろう…?市警官には見えなかったし、もしそうだったとしたら、カジノが無事なはずがないし…それに、あの言葉…

あの独特な感じ…どこかで聞いたことがある響きだった…英語でも、ドイツ語でも、スペイン語でもない…あれは…

キャラメリゼ

……っと…ここか

地上へのマンホールに続くハシゴを上り、思い鉄扉を持ち上げる…これが朝だったら悲惨だっただろうな…街灯の光が差し込み、思わず目を伏せてしまった。

キャラメリゼ

……?にしては明るすぎやしないか…?いくら位地下道を通ってきたとしても…この光は…

まるで、昼のようではないか…?

怪盗キャラメリゼ…!本当に出てきやがった!!

キャラメリゼ

なっ…!?

ファウスト…?違う、この声は…!

おい!捕まえろ!!

逃がすんじゃねえぞ!!

キャラメリゼ

っ!

地上に出かけていた上体を引き戻し、地下道に舞い戻る…どうなってる…?先読みされた…!?

キャラメリゼ

あの光…そうか、懐中電灯か…!でもどうして…あれではまるで、ここに来ることがわかっていたみたいじゃないか…!!

幸い合流ポイントはいくつか用意していた。咄嗟のことで、相手も追いかけては来ていないようだ。とにかく、なんとかして合流しなきゃ…!

いたぞ!こっちだ!!

キャラメリゼ

チッ…!

逃げられると思うなよ!!

キャラメリゼ

なんで!!

いい加減諦めな!!

キャラメリゼ

嘘だろう!?

おかしい…こんなのおかしい…!全滅だ!!何が起こっている…?こんなに行動が先読みされるなんておかしい…!!

キャラメリゼ

地下には何かあるのかもしれない…地上に出て逃げた方が安全か…

その方が合流もしやすい…最悪、拠点にたどり着ければ…!!

キャラメリゼ

………まだ、誰もいない…

いつも通り屋根を渡って逃げよう…その方が捕まりにくいし、何より、慣れてなければ足を取られやすいから都合がいい…
私はフックショットで、適当な建物の屋根に登った。風が強い…足を滑らせないように気をつけなきゃ…

キャラメリゼ

これで少しは逃げやすくなったか…さてーー

Oyosuodoir

キャラメリゼ

っ!

進行方向とは逆の位置…そこに、3人の人影が見えた。屋根の上までは街灯の光が届いていないから、よく見ることが出来ない。でも…今の発音は…

Iasotasn,omomiugasasn,akerininohnogawutuizaniedusoy.Obukinamakesetukadasi!

Asassotihsor

Awakettamusoy…

ジャポネズ…それに、この声…月の光で、その姿が鮮明に映し出される…

チアキ

やあ、怪盗キャラメリゼ。はじめまして…僕達はヱトセトラ探偵社というものだ

チアキ

僕達の目的は、君を捕らえることじゃない。そのワイングラス…返してもらえないかな?

キャラメリゼ

チアキ…!?なんで…!?

チアキ

へ?僕の名前…知ってるの?

チアキ

さすが怪盗。敵の調べも完璧なんだね…

違うけど…ここは話を合わせた方が良いな…

キャラメリゼ

…ええ、少しばかり。

キャラメリゼ

でも、いろいろと調べ不足だった様だ。君たちの仲間には、魔術師でも存在しているのかな?

チアキ

魔術師ね…面白いことを聞くね、怪盗さん。

チアキ

でもごめんね。敵に手の内を明かす様な真似はしたくないんだ。それから…あまり手荒なことをして、大問題にもしたくない。

チアキがちらと背後を振り返る。そこには二人の男が立っていた。そのうち一人は、先ほど私の手を掴んだ男だ…なるほど、探偵だったのか。

チアキ

僕の後ろにいるこの人…彼は日本武道の達人でね。君が素直に動かないなら、実力行使に出るしかなくなる…

チアキ

逃げようとかって言う考えは、捨てた方が身のためだよ。君がそのワイングラスを持っている限り、僕たちやカジノの人達には君の居場所は筒抜けだからね。

キャラメリゼ

へえ…細工はワイングラスにあるんだ…
後で調べさせて貰うよ

チアキ

その「後」は君には訪れない。僕と違って、あの人は気が短いんだ。早く、ワイングラスを置いて立ち去ってくれ。

キャラメリゼ

Non、ごめんねレディ。君たちが依頼を受けた様に、私も依頼を受けた身なんだ。このワイングラスは渡せない。

チアキ

…そう。

……Oduanatt?

チアキ

……Ademedisat…

……Ayettiiak?

チアキ

………怪盗さん、君はもう少し自分を大切にした方が良いよ。

チアキ

…残念だ。

チアキがつぶやいた瞬間、その背後から男が飛び出してきた。間合いが一気につまり、男の拳が眼前に迫る…

Asiohsakarokuusayriinadoy!!

キャラメリゼ

おっと

私はそれをくるりと半回転して受け流す。そしてーー

キャラメリゼ

またね、探偵諸君

Ioamete!!

An…!?

チアキ

Aubani!!

私は後ろ向きのまま屋根から飛び降りた。背を下にして、そのまま地上にーー

たたき付けられることはなく、私はすっぽりとファウストの腕の中に収まった。

キャラメリゼ

遅い

ファウスト

あなたがむやみやたらに動き回るからです…あと軽すぎますよ、あなた…

キャラメリゼ

ダイエット中なんだ♪

ファウスト

全く…とりあえずお暇しましょう

キャラメリゼ

あ…まって、ワイングラスがーー

ファウスト

発信器のことなら安心してください。車に入ればジャミングで妨害されますから…その間に探して外しておいてください。

キャラメリゼ

ハッシンキ?じゃみんぐ?

ファウスト

ちゃんと説明しますから…早く乗ってください。もう市警にも連絡してしまったんです。

キャラメリゼ

わ、わかった

私が後部座席に乗り込むと、車は音を立てずに動き出した。程なくしてパトカーのサイレンが近づいて来る…

キャラメリゼ

これなら、依頼を失敗してもチアキたちにとばっちりが飛ぶこともないだろう…

ファウスト

まだ安心しきるのは早いですよ。ワイングラスのどこかに、小さな機械がついているはずです。それを外して、外に捨ててください

キャラメリゼ

わかった。

ワイングラスをよく見てみると、グラスの底に黒いボタンの様なものがついていることがわかった。明らかに異質なそれを、私は窓から投げ捨てた。ファウストによると、これが居場所を遠隔で伝える装置なのだそう…そんなものは、想像の世界の話しだと思っていた…本当に存在するなんて…

ファウスト

相手は…あの、物作り大国『ニッポン』の連中です。実在してもおかしくありません。

キャラメリゼ

ニッポン…また面倒なのが出てきたなぁ…

ファウスト

まあ、あなたなら問題ないでしょう…着きましたよ

キャラメリゼ

ああ、ありがとう。

拠点に入って仮面とマントを外す…はあ…今日は疲れた…

ファウスト

さすがにお疲れですね

ファウスト

しかし…科学兵器が出てきましたか…対策を考えなければなりませんね

サヴァラン

うん…そうしてもらえると助かる。俺には対応し切れないよ…

ファウスト

機械に弱い怪盗ですか…ふふ、なかなか滑稽ですね!

サヴァラン

人事だと思って…

サヴァラン

じゃ、俺帰るね。次の目星がついたら連絡ちょうだい

ファウスト

おや、もう帰ってしまわれるのですか?

サヴァラン

明日は大事な用事があるんだ。寝坊すると大変だからね

ファウスト

そうですか…でも、一杯くらいつきあってくれませんか?せっかくいいお酒も手に入ったのですし…

サヴァラン

せっかくだけど、また日を改めてね。

ファウスト

…………

ファウスト

わかりました。では、あなたの都合が良いときにでも…

サヴァラン

ああ、それまで、楽しみにしておくよ♪

残念そうなファウストを尻目に、俺は拠点から出た。空には小さな星が沢山散りばめられている…

サヴァラン

明日…楽しみだなぁ…♪

少し上機嫌で、俺は家まで戻り、そのまま眠りについた--

ファウスト

…そうですね…ちゃんと待ちましょう。焦らずに、ゆっくりと…

ファウスト

器が、完全体になるその日まで…

次の日、俺は予定より少し早い時間に目が覚め、待ち合わせにも少し早く向かうことにした。レディを待たせるなんて、紳士のすることじゃないからね♪

サヴァラン

母さん、ちょっと行ってくる!!

あ、待ってサヴァラン!

最近越してきた方が、挨拶に来てくださったわよ。挨拶だけでもして行きなさい

サヴァラン

越してきた方?

カウンターに改めて目を向けると、そこには見覚えのある三人組がいた…

サヴァラン

げっ…!!

チアキ

ボンジュール、サヴァランくん!朝早くにごめんね!!

……Amizak…

Osiut?Umusokett

チアキ

Osueduso!サヴァラン=ブリュレuknnedus!!

チアキ

前は本当に雑談しただけだったからね…ちゃんと自己紹介しておこうと思って。

チアキ

僕たちは、日本出探偵社をやっているんだ…その名も『ヱトセトラ探偵社』!

サヴァラン

あ、ああ…ヱトセトラ探偵社…

サヴァラン

昨日聞いたなんて口が裂けても言えない…!!

チアキ

僕は、そこで助手兼通訳をしている…チアキ・ツイタチ。で、こっちの背の高い人が、レンマ・モモイグサさん!

レンマ

Obuoyrukazatinamikokamerosuinanattaroynneduker。Ekitarihsetayuroy!

チアキ

えっと…困ったら呼んでくれ、だそうだよ。

チアキ

で、こっちがムチウ・イサトさん!僕のバディだよ!

ムチウ

……Oyorihsuk。

チアキ

よろしく、だって!

チアキ

百戦さんも言ってたけど、困ったことがあったら何でも相談してね!絶対に力になるから!!

レンマ

Ohsappanonihsogotaha、diihsappiadattekodan。

チアキ

Oserahiawaniedukadasi!!!!!!

サヴァラン

ふふ、ありがとう。是非頼らせて貰うよ。

チアキ

うん!

チアキ

急いでるのに、引き留めちゃってごめんね。

サヴァラン

いや、こちらこそ…何のもてなしもできなくてごめんよ。後日必ず。

チアキ

本当?じゃあ、楽しみにしてるよ♪

チアキ

行ってらっしゃい、サヴァランくん!

サヴァラン

ああ、行ってきます!!

何とかやり過ごせた…そう思ったが…

ムチウ

…怪盗キャラメリゼ

サヴァラン

え…?

ムチウとすれ違った瞬間、彼が確かにそうつぶやき、俺に嗤いかけたのがわかったーー

あ…大事なこと伝え忘れちゃった…

…………

第3幕
グラスオブシュヴァイン
La Fin

『ベルリーナ=スノーボール』

第3幕 5ホール目 駆け抜けろ、カジノ・ザ・リッパー!! 後編

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