彼は箱に手を伸ばす。
彼が選んだ箱は……
彼は箱に手を伸ばす。
彼が選んだ箱は……
俺が選ぶのは……
…………どちらも、いらないよ
残念です
それでは、お帰りくださいませ
帰らないよ
え?
今から俺が、この竜宮城の主になる!!
は?
オト姫さま、気づいていた? 君以外はみんな俺の虜になっているよ。もう、俺の言う事しか聞かない……ね?
はい
もちろん魅了の力は使っていないよ
魅了なんて使わなくても、ウラシマさんが良いですから
私たちは亀ちゃんの味方だもの。
亀ちゃんが選んだのなら、私たちもウラシマさんを選ぶわ
み、みなさん……
オト姫を投獄してくれ
は~い
何をするのよ?
すみません、我が主の命令ですので
寂しくないように、牢獄には看守をつけておいたよ。楽しみたまえ。
オト姫が投獄された牢獄の前に、
ゆっくりと男が現れた。
老人だ。
久しぶりじゃな、オト姫さま
ウラシマ………太郎………
そう、貴方の玉手箱で老人となった最初のウラシマ太郎じゃ。わしの役目は一つだけ、貴方の話し相手だそうでな。
ど、どうして
魂となり、この浜辺を彷徨っていたところ、奴に拾われたという話じゃ。同じように無限の時を彷徨う者同士、奴の話し相手をしていたのだが………この偶然、この奇跡、喜ばずにいられない。さて、オト姫さま、1000年分の世間話でもしようかのう……………
…………
まずは、オト姫さま……良いかね?
な………
逃げられないように、足を一本だけ頂きますね
さて、何から話しましょうか?
これから1000年は
世間話に付き合わされそうだ。
だけど、
それは彼には関係のないことだった。
食事をさせてね。俺はずっとここにいるつもりだから。
はい
こうして、
彼は竜宮城の主となった。
ところで、貴方の名前は何でしたっけ? ウラシマさまだと看守のおじいちゃんと同じ名前になってしまいますよね。
「ウラシマ」とは
此処に訪れる男の通称名であり、
彼の本当の名前ではなかった。
旦那様って可愛く言ってくれたら教えてあげる
だん、にゃしゃ………?
はい、噛んだね。残念。本名はしばらくナイショだね。
厳しすぎません?
厳しくないよ、ほら隣においで
はーい
彼らは竜宮城で
幸せに暮らしました。
めでたし
めでたし
これで、良いのか?
闇の向こうで
誰かが叫んでいた。
それは彼自身の声だった。
まぁ、良いかな……あの子も笑っているし
そうか……それならば、進むが良い
あんたは誰だ?
俺はお前だ。
様々な選択を選び、やり直しを繰り返し、そして最後の選択肢の結果
ここに囚われた哀れな俺
……
選択肢の結果は、死ぬか狂うか……そればかりさ
俺はやり直しを繰り返した
だが、今の俺の前に選択肢は現れない。
俺が最後に掴んだ選択肢の先には、そういう結末が待っていた。
「選択肢のないまま、別の俺が選んだ選択を繰り返し見守るだけの存在。」
この閉ざされた時間軸に俺は囚われている。
この時間軸に囚われた、俺
俺とは違う選択肢を選んでくれて良かったよ。お前は俺の知らない未来に向かう、初めての【俺】だよ
この道を選んだ【俺】と、彷徨い続ける俺が言葉を交わすことはもうないだろう。この道が【俺】にとっての幸せな未来であるよう祈っているよ
目の前に現れたのは
【彼】だった。
【彼】の手には鋏。
【彼】は彼との間を
チョキチョキと切り始める。
チョキ チョキ チョキ
お前は、この先も永遠にここに居るのか?
ああ、数多の俺の結末を永遠に見届ける
それが「俺の結末」だからな、【俺】は自分の結末を生け!
そして……
目の前に見えない壁が
これで、俺と【俺】の世界は切り離された。もうやり直しは出来ないよ
よく分からないのだが
分からなくても良いのだよ
最期に助言をしようか?
「隠し事」をしてはいけないよ。
この先の選択肢はやり直しが出来ないだろうからね。
隠し事はいけないよ
吸血鬼様
…………
【彼】の姿が消えていく。
そして、目の前には鏡があるだけで、
その鏡には誰も映っていない
ま、鏡に映らないよな、吸血鬼だし
わかっているさ、隠し事はしないよ
あの……お話って?
ああ、実はね………
俺は……
終