Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

1 旅立ち

  

  

   

 フェシス。





 その名の持つ引力。




 あるところでは“英雄”と称えられ、またあるところでは“神”と拝められ、またあるところでは“世界”となり、“希望”と同義語になった。




 フェシス。







 その名は一人歩きをし、彼の物語は人々に夢と感動を与えていった。



 

 揺るやかな丘陵。

 広大な空。



 穏やかな風が吹き、一面のみどりにピンクの花が踊っていた。


 一見そうとは分からない墓標の上には花輪がかけられ、その下の土は少し盛り上がっている。

 

 彼のために与えられた場所。

 彼が眠る場所。




 ひっそりとしたそこは、彼自身が望んだ場所でもあった。


 もし、自分に何かがあれば、ここで眠りたい。


 そして、希望通りに彼が眠る場所へとなった。


 その前で、金髪の旅人が佇んでいた。

  目を細めるその表情は憂いを帯びている。

 はかなく、触れればすぐにでも脆く崩れ落ちそうな。

 割り切れない何かをもてあましているような。

レダ

わかっているよ

 不意に、彼は呟いた。



 そっと目を閉じると、別の声が聞こえてきそうだった。



 この場で眠る人の、やさしく強い声。



 一体何が分かっているのか、それは彼も分かっていなかった。

 しかし、自分がそう応えることで眠る人に安心させてあげたかった。


 雲のない青空からは、光が降り注いでいる。


 彼が光を見上げると同時に、また風が吹き、さらさらの金髪をゆらした。




 そして唱える。

 希望の名。






 

レダ

フェシス










    

ラムダ

行ってきます

あぁ。気をつけて行くんだよ

ラムダ

分かってるよ!

何かあったらいつでも帰って来るんだよ

ラムダ

大げさだな
そんな子供じゃないよ

 泣き出しそうな母親に笑えば、あんたはいつまでもあたしの子だよと小突かれる。

 
 2人で小さく笑い合う。

 出航の合図。


 もう時間がなかった。



 懸念がある。

 永遠の別れになるかもしれない。

 もちろん、そんなこと信じたくはないが。

ラムダ

町に着くたびに手紙を送るよ

あぁ。絶やすんじゃないよ

 今日はよく晴れている。

 旅立ちにはいい日だった。



 大河を越えた世界。

 それは、ここリバーストーンに暮らす者たちにとっては、フロンティアだった。




 たくさんの物語こそ伝わってくるが、実際に自分達で外の世界に出ることは滅多にない。

 だから、ラムダの旅立ちは、リバーストーンで小さなニュースになっていた。

 賛否両論さまざまだったが、何を言われてもラムダは自分の決心を揺るがすことはなかった。






 胸にあるのは希望だけ。

 ラムダの目的はただひとつ。

 世界が見たい。









   

pagetop