――遺跡階段室、迷宮への入り口。
――遺跡階段室、迷宮への入り口。
コフィンとアリスの忠告を受けたハル達は今から迷宮に降りるところだ。
階段室のはずれには鉄格子があった。入口の光が届かぬこの場所から、地下に延びる階段を降り、迷宮に向かうのだ。鉄格子の前には衛兵二人がだらしなく立っている。
…………
…………
衛兵はハル達と顔を合わせようともせず、鉄格子の鍵を開ける。そしてもの言わず、元の位置に戻った。
なんだ?
不愛想な奴等だな。
関係ねぇよ。
ほら行くぜ。
そうね。
愛想なんて迷宮の魔物には
通用しないわ。
気を引き締めて行くわよ。
さっそくリーダー
してるっすね。
頼もしいっす。
一人づつ鉄格子を潜り抜けていくハル達。全員が通り抜けると、衛兵は鉄格子を閉め鍵を掛けた。
階段を降り始めるハル達。
ロココが不安な表情を浮かべ、既に閉まってしまった鉄格子を振り返った。
階段を一段一段と降りる。緩やかに曲線を描く階段は、階段室の僅かな光を減少させていく。たいまつなどなく足元の心配をし始めた頃、視界の先に大きな門が見えてきた。
門は壁伝いに開かれ、どっしりと重そうな門の模様からは、光が鈍く放たれている。
近付いてみると、その模様は繊細且つ複雑だった。門の高さは誰がこんなものを造ったのかと思うほど巨大だった。
足を止め門を見上げるハル達。ハルの身長の四倍か五倍はありそうだ。尚更、人間が造ったものとは思えなくなってくる。
ガーディアンゲートです。
魔気を地上に漏らさない
働きをしています。
そしてこの先からが
地下迷宮になります。
コフィンの説明を聞き少し冷静になり、門の奥に広がる迷宮に意識を向けた。
ちょっと先までしか
見えないっすね。
いえ、意外にも明るいわ。
松明もないのに
何故こんなに
見えるのでしょうか?
壁やそこらの鉱物が
僅かに発光しているようです。
離れた場所は暗闇ですが、
自分達の周囲を視認するには
充分な明るさと言えるでしょう。
魔気が何か関係
しているんでしょうか?
マギって何か
聞き覚えがあるっす。
!?
……アホか?
彼は気にしなくて結構よ。
話を進めてちょうだい。
魔気が関係しているかは
分かっていませんが、
迷宮の鉱物には光を放つ物が
多いのは確かです。
おおおーーっ!
鉱石っすか。
刀の素材になるものが
あったらいいっすね。
地上に近い上層の鉱石は
殆ど地上の物と変わりません。
五階層を越えた辺りから
上質になります。
それじゃあ早く
五階までいけるように
頑張るっす。
意気込みはいいけど
まずは目の前の一階層だろ。
そうですね。
安全第一でいきましょう。
よし、そろそろ行くか。
そうね。
皆、慎重にね。
ドキドキしてきました。
ガーディアンゲートの内側には六人ほど衛兵が居て、特にこちらに干渉してくるわけでもなく雑談をしている。
ぅおーっし!
一番乗りっす。
うげ、気持ち悪いっす。
ガーディアンゲートを越えた瞬間、訓練場で体感した以上の重苦しさが圧し掛かってくる。迷宮に充満する魔気によるものだ。
「何も見えない」「聞こえない」「触れない」
でも、何かある。リュウがそう語った、危険の正体が判別できない気持ち悪さ。魔気に関わる者達が『五感の裏側』と口に零す感覚だ。
う~ん、やっぱ
オイラ苦手だわ、
この感じ。
これが好きな奴は
いねぇだろ。
マスターリーベは
慣れるしかないと
仰ってましたが……。
そのようね。
ロココ大丈夫?
はい。
僕は大丈夫です。
それに近くに
魔物は居ないと思います。
そんな事も分かるの?
凄いじゃない。
ボヤっとした感覚なんですが
把握できます。
凄いやつだな。
おい、コフィン。
凄い奴がいるぞ。
結晶師並の魔操者が居ると
訓練場からの資料に
書いてありましたよ。
読んでないでしょうけど。
まそうしゃ?
なんだそれは?
何故アリスが知らないんですか。
魔気を操るのが得意で
魔気の感知や、
刻弾の扱いが上手な
方達の事ですよね。
そうみたいです。
僕にはあまり自覚は
ないんですが……。
ロココは控えめな態度で言葉を濁らせた。本人は謙遜しているが、少なからず貴重な存在には違いない。単純な戦力とは違う心強さがあるのは確かだ。
気を抜かないでね。
奥へ行くわよ。
ユフィの声と共に、いよいよ隊列を組んで迷宮の中を進み始める事になった。