アルト

…ちょっと待ってくれ。
その前に、聞きたいことがある。

…なんだ

アルト

…お前は…どうしてスコアゲームなんてやろうと思ったんだ?

………

それだけ、どうしても聞きたかった。
二人のスコアホルダーが、生きてここに揃うことが初めてだということ、死んだはずの奏者、それを守ることを義務づけられた番人…このゲームは…

アルト

このゲームは…軽い遊び気分でやって良いものじゃない…それだけ多くの犠牲を出すゲームだ。いくら神だからって、許されることじゃないだろう?

ルナ

アルト…

アルト

どうして、やろうと思ったんだ?
教えてくれ。

……

Kは、少し言いよどむ気配を見せた。でも、逃がす気はない…このまま願いを叶えてしまったら、卑怯者になってしまう気がして…彼の真意を知りたかった。

……それを知って、何になる?
お前に関係がある事ではなかろう?

アルト

それでも知りたいんだ…犠牲になった人のためにも…ゲームに負けた、いままでのスコアホルダーのためにも…!

……お前は、変わっているな。
願いを叶えられる瞬間を前にして、そんなことを聞いてきたのは、お前だけだ。

Kの姿が歪み、黒い影から、全身を白で固めた男が姿を現した。これが、K…?

アミス

…!

テナ

姿が…!

ルナ

うわぁ!神様みたい!!

アミス

あのなぁ?

…敬意を示そう。だが、その質問に答える気はない。

アルト

…どうして?

無駄だからだ。その時間が、無駄だから。

お前は願いを叶えて帰る…それで終わりだ。ハッピーエンドだ。それでいいだろう?

アルト

……お前…!

お前が言いたいのは、無駄に犠牲を増やすなと言うことだろう?…わかってる。そんなことは。だが、これは贖罪だ。助けられなかった私の…贖罪だ。

アルト

…ショクザイ…?

アミス

要するに罪滅ぼしだ…何が起きたかはわからないけど…神はそれを話す気はないらしい。

テナ

贖罪…

これで満足か?これ以上答える気はない…私にはどうしようもないことだ…

アルト

……

これが罪滅ぼし…だって…?何を言っているんだ、こいつは…こんなんじゃ、罪滅ぼしどころか、罪を重ねているだけじゃないか…!

もう良いだろう?
早く、私に願いを…

さあ!!

……こいつは…狂ってる…止めなきゃ、また犠牲が出る…!

アルト

でも…『どうしようもない』と言っていた…それなら…!

願いは1つーー!

アルト

すべてが、幸せでありますように

…は…?

テナ

何を…!?

考えを聞こうか

アルト

…誰か一人の願いを叶えて幸せにすることなんて、ショクザイでもなんでもない。それは、所詮お前の自己満足だろう?

アルト

幸せにできなかった人がいるなら…その分、もっとたくさんの人を幸せにするべきだろう?お前は神様なんだろう?それなら、それが出来るはずだ

アルト

だから俺は…この願いに、全ての願いを乗せる…

アルト

すべてを幸せにしろ…それが、俺の願いだ!

……………

Kはしばらく、目をまん丸にして俺を見つめた。そして、数度瞬きをし…

……ははっ…あはははは!!

大声で笑い出した。

面白い…まだ、人間にそんな願いを掲げる奴がいたとは…!

いいだろう…その願い、聞き届けよう!

その瞬間…ふわりと体が浮かぶような感覚がし、俺は思わずあたりを見回した…眼下に、小さな二つの影が見える…俺、本当に浮いてるんだ…!

これからお前達をネイチャーカオスに転送する…願いの成就には時間がかかるだろうが…必ず叶えて見せよう

アルト

…!

アルト

おう…頼んだ!!

ルナ

アルトー!!

アミス

テナ!!

ルナとアミスが、各々のパートナーに呼びかける…俺も呼び返そうとするが、それを阻むように酷い眠気が俺を襲った。

アミス

生きろ、テナ!!何があっても、強く!!生きろ!!

ルナ

また会うのよ!ここでも、アルトの世界でも…どっちでもいい!!必ず、また会うのよ!!それが…

ルナ

あなたが叶えてくれる、あたしの願いだから!!

二人の叫びは、ちゃんと俺に届いた…だからきっと、テナにも届いているはずだーー

アルト

また、会おう…でも、今は…

おやすみなさい

アルト

っ!!

凄まじい揺れで、俺は意識を取り戻した。こ、ここは…

間もなく
中央島ターミタル…
中央島ターミタル…
お出口はーー

中央島ターミタル……もしかして、俺…帰ってきたのか…?

アルト

中央島ターミタル……

アルト

そうだ、圭!圭は!!

アルト

すみません、降ります!!

久しぶりの現実世界に浸っている暇もなく、俺は慌てて人をかき分け電車を降りた。

アルト

圭…圭…!!たのむ…神様…!!

祈るような気持ちで、どこか懐かしい街並みを駆け抜けて病院を目指す…

息を切らせながら何とか病室にたどり着き、はやる気持ちを抑えながら扉をスライドさせ…

アルト

……!うそだ…

最初に口から出た言葉は、飾りもしない、そんな言葉だったーー

ケイ

おはよう、在斗

願い、ここに終着。

ちょっと待ってくれ

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