ナイト

…………これからもオレはお前の兄貴だから。オレさ、お前の兄貴じゃないと……この先、生きられなくなったみたいでさ……

ナイト

爺さんに誓ったからかもしれない。オレの命はお前のもの……お前の存在がオレの生きる理由なんだよ。爺さんから名前を貰った時から、そうだった

エルカ

……………そんなの、重すぎるよ

ナイト

ああ、わざと重くしている

そういうところは、意地悪だと思う。

ナイト

出来れば、あの時……本の世界に留まっていて欲しかった。
物語を完結させないで欲しかった

エルカ

それは無理な話。
本の世界から図書棺に戻るには物語を完結しなければならないから。

ナイト

あの世界だろうと、ここだろうと、お前の望みは本を読んで過ごすことだろ?

エルカ

そうだね、本音を言えばね。たくさんの本があるのなら、何処でも良かった

ナイト

お前はたった一人で引き篭もって読書していたいのだろうが、一人ではいずれ寂しくなる。そんな思いはさせたくない

エルカ

本があれば寂しくなんかないよ

ナイト

どうだか……

エルカ

………

ナイト

嫌なことを忘れた状態で本の中に残れば良かった。
オレも本の世界に残れば一人ではない。寂しいことは何もない

エルカ

私は、それが嫌なの。私の我儘の所為で、兄さんに迷惑をかけたくなかった

ナイト

迷惑って何だよ? お前がいなくなる方が大迷惑だよ。お前はオレを狂わせるつもりか?

エルカ

兄さんはそう言って抱きしめてくれた。
熱い、熱すぎる思いで包み込んでくれる。

エルカ

私、思ったの。この偽りの兄妹関係がいつかは終わるだろうって

ナイト

そんなことは……

エルカ

違う。
いつかは終わらせないといけないの。お爺様もそう思っていたから、私に貴方の過去を教えてくれたんだよ

ナイト

………っ

エルカ

貴方にも恋人が出来るかもしれないでしょ

ナイト

はぁ?

エルカ

まぁ……人間としての幸せを手に入れて欲しいって話……もし、その時が来たら私は兄離れをしなければいけないって

ナイト

人間としての幸せって……

エルカ

私と貴方の間には血のつながりはない。だから、もしも貴方が自由を望めば。その時は、引き止めてはいけないって。

ナイト

そうだったのか。余計なお世話だな………

エルカ

貴方は私を護る為に用意された兄、だけど。私は、貴方の足枷ではない。

ナイト

足枷だなんて思ったことはないさ。お前はオレにとって、何よりも大事なモノだ

エルカ

………

ナイト

言っておくが、お前を嫁に出すまでは、恋愛なんてしないよ

エルカ

兄さんの愛情は、やっぱり重いね

エルカ

その重すぎる愛情は受け取っておくよ

ナイト

嫌と言っても押し付ける

エルカ

わかったから。兄さんは帰って

ナイト

それじゃ、ダメなんだよ。オレは、お前をここから連れ出さなければならない……

エルカ

それは、私の望みではない

ナイト

本さえ読めれば何処でも良いのなら、現実世界でも問題ないだろ?

エルカ

………そう、だけど。別に死を選んだわけじゃないんだよ。私は生きている。今まで通りに兄さんが好きなようにすればいい

ナイト

ずっと目覚めないのは、死んだようなものだろ

兄さんの視線が迫る。

私がここに留まる限り、現実世界での私は植物人間になる。

ナイト

…………

エルカ

…………

ナイト

オレはこれまでお前が嫌がることはやらなかった

エルカ

うん

ナイト

オレは今からお前が嫌がることをする

エルカ

え?

そんなことを言われる日が来るとは思わなかった。

兄さんが意地の悪い笑みを浮かべた。

嫌がること。

それが何なのか、私には予測できない。

ナイト

お前が現実に戻りたくない理由は分かっているよ

エルカ

………

ナイト

そいつは………オレやソルには、どうすることも出来ない理由だ

エルカ

………だったら、放っておいて……それは私たちの問題だよ

ナイト

放ってはおけない。【私たち】というのなら、その片割れのことはどうするつもりだ?

エルカ

………そんなの、貴方には関係ないよ

ナイト

オレはこれから、お前の為に、お前を傷つける

ナイト

これが、オレとお前の結末になる。
お前がオレに望んでいた、「放っておいて欲しい」という望みを……オレは叶えない。

第10章 兄妹の結末5

facebook twitter
pagetop