ありがとうございましたぁ

今日も閉店までいた数名の常連客を見送ってから、店内の清掃を開始。

あれから、「技表」を設置して、Wikiも更新してみた。その効果なのか、客数が何気に増えて、最近だと地方から来る客まで出てきたほどだ。

…ほんと、手間のかかるゲームだよ

そんな事を言いながら、俺は店内の清掃をスタートさせると、聞きなれた声が店内に響いた。

さ・す・が・に!!
アンタは出てきたらダメだ!

我が道を阻むと言うか―――どけ、虫けらよ!

勢いよく、ムラキは吹き飛ばされ、壁に激突した。

おい!!
店で暴れるのは無しだろ!!

貴様か…

店で暴れるマナーの悪ぃヤツを見逃すわけには―――

まて…やめとけッ…コイツが…コイツがラスボスの『ブラッティオ』だ

ラスボス!?
…ってか、名前しっかりしてるし…ヤバイのか?

我に牙を向けるとは、愚かしい人間だな…少し深淵の魔力を味わってみるか?

…くっ!…セリフ回しの段階で悪そうだし強そうだ…

でも―――

やめろ!俺が相手してやる!

ほぉ…良いだ―――

ゲーセンの中で暴れるのは許さねぇ!!
お前も!
お前も!
暴れるのは許さねぇ!!

ってか、お前らみたいなのが暴れて、筐体がぶっ壊れたらどうすんだ?
なぁ。壊れたらゲームの中に戻れるのか?

………お前…

………なるほど

何が「なるほど」だよ!
こっちは、店員だ!なめんなよ!

いいぞ。いいぞ。
貴様、なかなか勇ましいではないか。
確かに「ムラキ」や「みすず」が世話になっただけはある

はぁ?

我は、最初からこの人間に話があっただけだ。それをムラキ…我の邪魔をしおって…何もせぬのだから、外に出ても良いであろうに

なっ!?

我も、うぬらと同様に相談事があるのだ

そ、相談…!?

えぇぇぇ!?

…すまなかったな。
ラスボスが故に、雰囲気だけは出さねばと

じゃぁ暴れねぇんだな?

そうだな。約束をしよう

マジか!アンタって…そんなキャラなのか?

………

睨むなよ…黙るから…。

…で、そのラスボスさんが相談って?
ほんと、今まではたまたま、解決していただけで、難しい事や面倒な事は無理だからな

ふむ。承知した。では、聞いてくれるか

まぁ、聞くだけなら

実はな……もう、闘いたくないのだ

えっ!?

我はもう、闘いたくない

そ、それって…?
…ど、ど、どーゆー事??

このゲームは、一人用でのみ我が出現するのだ

あぁ…ムラキから聞いたよ。
全6キャラでボスはプレイアブルじゃないから、5キャラだって

我は疲れた

えっ!?
ちょっと、意味が…

…このゲーム『体育館戦争』はさ。1プレイで8バトルやるんだ

8バトル?
いや、5キャラでしょ?…最後がラスボスの『ブラッティオ』として…あと二人いないと数が足らないじゃん。そもそも、同キャラ対戦があったとしても足りてないし。

そうさ!だから、3バトル目と6バトル目と最終の8バトル目に、必ずラスボスのブラッティオが出現するのさ!

は?

我が崇高な姿をとくと拝むがいい

1プレイで3回も出てくるって…有難みも何もないな。ってか「ラスボス」の「ラス感」なさすぎだろ。
やっぱ、クソゲーだわこれ

まぁまぁ…そーゆー仕様なのさ

はぁ…んで、疲れたって……あ、もしかして―――

出番が多い

だから疲れたと…?

ご名答

えっと…つまり?

ヒロインの『みすず』が言うには、貴様ならば、何とかしてくれると。
すなわち、我を倒さぬようにしては―――

無理だろ!お前、最速で3バトル目に出てくるんだろ?
それで、お前に負けたらゲームは終わるんだろ?
…そんなんで、『当店ではボスに勝ってはいけません』って…意味、分からなすぎだろ。
本当にクソゲーって言われるぞ

おなごの頼みは聞けて、我の頼みは聞けぬのか?

度合いが違うっての

そんなの…そんなの…

さては、アレを言うつもりか…

我が…絶世の美女であれば…

「あんまりだぁぁ」を言う流れだろうが!

…いやいや、絶世の美女でも、妖艶な美女でも、幼女で―――

幼女ならば

ないッ!
流れを無視して、何に喰い付いてんだよ!

なるほど、そのような趣味が―――

違うっての!
お前、最初から聞いてただろ!

そして、暫くの沈黙が続いた…。
さすがに『負けろ』は無理すぎる頼みだった。

せめて…せめて…

…せめて客が増えればな

客が増えるとどうなるんだ?

人が増えたら、対戦ゲームなんだし、一人用のモードよりも、対人対戦がメインになるじゃん。
そしたら『ブラッティオ』の悩みも解決するんだと…

客を増やすがよい

そう簡単にはいかないって、キッカケでもあればなぁ

すると筐体の方から、また聞きなれた声が響いた。

ちょっと、アンタ!何者なのよ!

痛い!痛いですって

みすずは、色白の男の耳を掴んで、マンガ的に実に分りやすい連れてき方で登場した。

不審者よ。不法侵入。それか変質者

いや、変質者って…不法侵入でもないですって、ずっと居ましたって

はぁ?そんな明らかに分かるウソついてどうするのよ。
こっちは何年やってると思ってるの?

えぇぇ!本当ですって…僕も何年も居たんですって!
あの、みなさん助けてもらえませんか?

た、助けろって…キミ、名前は?

えっと…名前は無いです

ほら、話しても無駄無駄無駄無駄。
ウリィィィィィ

…何かディオみたいになってる…じゃなくて、待って!待って!

なに?

いや、たぶんゲームキャラだよ。
ゲームの中から出てきたじゃん。
俺はゲームの中に入れないし…たぶんゲームキャラ…だよ?…たぶん…

はい!

はぁ?名前の無いキャラって普通ある?

…うーん…無い事はないよ。
バグだったり、消し忘れのゴミデータだったり

ゴミとかじゃないです。
あの次回作に登場する予定で、今回は『隠しキャラ』って言われて実装されたんです

隠しキャラ!?

…はい…でも、未だに隠されたままで…何か、最近みなさん楽しそうで…僕もそろそろ、使って欲しくて自分で出てきました

まさか、我の知らぬ戦士がおったとは

これ…もしかしたら…ブラッティオの悩みが解決するかも

つまり?

客が集まるっ!

そして数日が経過……

『体育館戦争』に30年経った今「新キャラ」が発掘される!

そんな見出しのニュースがテレビで放送され雑誌にも掲載された。

そのキッカケは、もちろん俺のツイート。
そして、これまでで実現してきた相談事の対応で、めちゃくちゃになった店舗ルールも相まって一気に拡散ッ。
気付けば店舗には、考えられないくらい大人数のプレイヤーが連日訪れていた。

もちろん、全員『体育館戦争』目当てだ。

…改めてもう一度言っておこう…

全員『体育館戦争』目当てだ!

ありがとうございましたぁ

それから、更に数日たった夜。
俺はいつも閉店まで遊んでいる常連客を見送ってから、店内を掃除していた。

あれから、アイツらも来ないし、相当満足してるんだろな

すると、聞きなれた声が、弱弱しく店内に響く。

たすけろ…

おい!ムラキどうした!
…さては…ついに、強大な敵が現れて、俺がゲームの世界に入って―――って展開になるのか?

第二章
『体育館戦争』編 開幕ッ!!

いや、違う

じゃぁ何だよッ!

対人対戦が増えて、もう身体が持たないんだよ

はぁぁ!?

頼む!対戦をやめさせてくれ

…いやいやいや…

またお願いねっ!

わぁ!みすずまで出てきたよ―――って、おいおいおいおい。ぞろぞろと…

俺はガンガン闘いたいがな…

やっと出番が来て毎日楽しいや

我からも頼む

うぉぁ!なんだ!?

民たちが『一人用』を遊ばなくなったから、出番がないのだ。

ユーザーを『民』と呼ぶな…ってか…

お前らワガママすぎんぞーーーーーーー!!!

とりあえず、ゲーセンの店員は営業中も、営業後も忙しい。
もちろん…まだまだ、相談は尽きないようだ。


だけど…ゲームセンター『カグラ』は、明日も楽しく騒がしく営業しておりますので、皆さんのご来店をお待ちしています。

おわり

【第四話(最終話)】ラスボス

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