【帰りたくないです】

少女の言葉が頭をよぎる。

彼女なりに何か事情があるのだろうし、

俺がこれ以上踏み込むべきでは……

ってそんな訳にいかないか。




迷うくらいなら行動する、

困っている人がいたら声をかける。



それが俺のポリシーだ。

綾瀬 亮介

嫌われたら、嫌われただ

自分の今の気持ちをしっかりと持った上で、

俺は玄関から外に出た。

綾瀬 亮介

よ、起きたらいなかったから、家に帰ったと思ったよ

……

そう笑顔で語りかけると、少女は無言のまま

小さく頭を下げる。

綾瀬 亮介

何をやってたんだ?

空を……見てたんです

少女はそう言って再度空に目を向けたため、

俺もそれに倣い空を見上げる。

綾瀬 亮介

何か変わった物でも見つけたのか?

いつもと変わらない空でした

綾瀬 亮介

まあ天気の良し悪しはあるが、だいたい同じようなものだろうな

並んで同じ空を見ているのに、別のどこかを

見ているようで、少女の存在はとても儚い。

……あなたは、ずっと後悔している事ってありますか?

綾瀬 亮介

そうだなー。もちろん俺もあの時こうすれば良かったって思う事はあるが、後悔して立ち止まるのではなく、その失敗を取り返すにはどうしたらいいかを考え、行動するようにしてるな

立ち止まらずに失敗を……取り返す

少女は頭の中で言葉の意味を考えているようで、

表情には今までに無い真剣みが感じられた。

綾瀬 亮介

まあ結果的にはうまくいかなかったかもしれないが、状況が良くなる事を願って選んだ選択なら、その気持ちは忘れてはいけないと俺は思うな

そうですね

少女はそう呟くと、目を瞑って黙り込んだ。

綾瀬 亮介

何かあったのか? 別に無理に聞くつもりもないし、余計なお世話だと自分でも分かっている。でも君の姿を見ていると放ってもおけないんだよ

……お気持ちはありがたいです。でも、あと少し私が辛抱すれば大丈夫なので

辛抱するにしても、この細い体で持つものなのか。

不安に駆られ、胸を締め付けられる。

綾瀬 亮介

でも、無理だけは絶対にするなよ。困った時は助け合う、それが世の中うまく行く方法だからな

……そうですね、ありがとうございます

綾瀬 亮介

朝飯だけでも食っていけよ。昨日ご飯を炊いてないから、パンと目玉焼きくらいだが

いえ、大丈夫です。そこまでお世話になる訳にはいかないので

遠慮せずにもう少し他人を頼ってくれれば、

状況が変わる可能性もあるのだが。

綾瀬 亮介

そっか。まあ、あんまり考え過ぎない事だ。
考え過ぎるとろくな事がないしな

……はい。それでは失礼します、ありがとうございました

少女はぺこりと頭を下げると、ゆっくりとした足取りで

離れていく。

綾瀬 亮介

あ、最後に! 君の名前は、名取 愛花か?

弓月 葵

……いえ。弓月 葵(ゆみつき・あおい)です

綾瀬 亮介

弓月 葵か。悪いな、呼び止めちまって

……いえ。それでは

弓月は再度ぺこりと頭を下げると、

駅前方面へと消えて行った。

弓月 葵、良い名前にゃ

綾瀬 亮介

ルキアも聞いていたのか。
そうだな、彼女の儚げな雰囲気に
ぴったりの名前だと思う

【名取 愛花】と言うのは、ただの夢?



それに、彼女は一体何を抱えているのだろう。




【あなたは、ずっと後悔している事ってありますか?】




それは何を込めて発した言葉なのか。


とりあえず俺にできる事はやったので、後は彼女次第。



弓月が去って行った方向を少しの間眺めて、

家の中へと戻った。

4話 ずっと後悔している事ってありますか?

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