俺、伊村延彦の住んでる世界はどこまでも波瀾万丈だと思っていた。




親が毎日の様に喧嘩をする家庭にいて、期待を裏切らずに案の定両親は離婚した。



いいんだ。これは俺の運命だから。




中三に上がる前、俺は母親と共に今まで住んでいた土地を出た。





これもしょうがない。親父より母親を選んだのは俺だ。





転校したのが中学三年生。俺はクラスで完全に孤立した。





こんな時期に転校する俺が悪いんだ。誰も責められないさ。





家に帰ると、母親はいつも仕事でいない。





帰ってくるのは、俺が寝付いたあとだ。




だが、毎晩そんな母親の泣き声が俺の耳に届く。




朝、俺が目を覚ますと母親は既に仕事に出かけていなくなる。




俺は、いつでもどこでも孤独なんだ…。





こんな真っ暗な人生。俺はいつしか光なんて見えなくなっていた。




この世に光なんてない。




少なくても、俺の所には。




なら、こんな世界から剥がれた方が楽なのでは…。




ある日、俺は屋上に向かった。




空は青いはずだ。風も気持ちいいはず。




だけど…、全てが黒い。こんな人生は望んでいなかった。



孤独が嫌だ。一人は嫌なんだ。




嗚呼、どうか来世では不運とは縁のない世界を…。




俺は世界との接点を立つべく、フェンスを上って…。

白百合涼香

待って!!

何者かに、声をかけられた。

伊村延彦

なんだよ

白百合涼香

なにしようとしてるの?

…自殺とは言えない。





このまま続けてもいいが、こいつにトラウマを植え付けるのは何か違う。




俺は大人しく上りかけのフェンスを離した。

伊村延彦

別に、風に当たってただけだけど?

こいつが居なくなってからでも遅くないさ。




居なくなったら…。

白百合涼香

そう…。

伊村延彦

わかったら帰ってくれない?

伊村延彦

一人で風に当たってたいんだけど

白百合涼香

嫌よ。
私今からこの屋上から飛び降りるんだから

伊村延彦

……はぁ?

白百合涼香

ここから飛び降りるの

伊村延彦

ワンモアプリーズ

白百合涼香

自殺するの♪

伊村延彦

はあああああああああああ!?

白百合涼香

なに、別にあなたには関係ないでしょ!?

伊村延彦

いや、まあ、そうだけど…

白百合涼香

わかったら邪魔しないでね

伊村延彦

いや、邪魔しないでねなんて言ってるやつを止めないわけないだろ!!

今さっきまで、自殺を考えてた奴が言えた義理ではないけどな。

白百合涼香

なに、あなた見た目以上に図々しいわね

白百合涼香

分かったわよ

伊村延彦

そうか、わかってくれたか…

白百合涼香

邪魔しないでね♪

伊村延彦

言い方を言ったんじゃねー!!

なんだこいつ…会話してて疲れるんだけど…。

白百合涼香

私は死ぬの!! 邪魔しないで!!

伊村延彦

邪魔しないでって言われても無理!!

白百合涼香

いいから、黙って指でもくわえて見てなさいよ

伊村延彦

お前は俺にトラウマでも植え付けたいのか!?

これじゃあ話が進まない、話をそらさないと…。

伊村延彦

あんたはなんで死にたいんだ。そんなに可愛い容姿してて、何が不満だ

白百合涼香

きゃ、きゃわ…

白百合涼香

あなた…私の事好きなの?

伊村延彦

自殺しようとしてる人がまあ、よくもそんな自意識が過剰だこと

白百合涼香

でも今、可愛いって…

伊村延彦

容姿が可愛けりゃ好きって、どんな神経してるんだ。バカか。

伊村延彦

その理屈でいくと、アイドルとか女優はモテモテだな

白百合涼香

なによ…みんな…私の事遊びとしか思ってないのよ…

伊村延彦

うん…?

俺は彼女に事情を聞いた。




なんでも、彼氏だと思ってた人には彼女がいたらしい。





彼氏に浮気されたショックから、自殺を試みたんだとか。





………




俺はその時、彼女を今さっき知ったばっかりの俺が、謎を解いてしまった。

伊村延彦

お前…その男に好きって言われたか?

白百合涼香

言われたに…あれ?

伊村延彦

可愛いとしか言われてないだろ?

白百合涼香

言われてみれば…

なにがどうこんがらがって、付き合ってると勘違いしたのかは知らないが、要は彼女の勘違い。

白百合涼香

あー、もー、私って一体…

伊村延彦

ドンマイ。いい青春の一ページだぜ。きっと…

白百合涼香

ううううう…

俺はこの時、自分が久しぶりに笑っている事に気がついた。




それに、今まで暗いと感じていた空が青い。




世界が明るい。

伊村延彦

ははっ…そーゆー事か

白百合涼香

なに、急に笑って…きもいんだけど…

伊村延彦

うるせー自殺女

俺は彼女に救われたのだ。




世界の裏側しか見る事ができなかった俺に、光を届けてくれた。




それに…

伊村延彦

………

白百合涼香

な、なによ…!?

ああ、なんてこった。




俺にこんな、残念系美少女を好きになる体質があったなんて…。

白百合涼香

………?

一度切り剥がしかけた世界でも…

捨てたもんじゃないな。

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