恵巳

好きなんだ、直刀のこと

彩希

えっ! それは、その――

    恵巳の問い掛けに顔を赤らめながら

      あたふたと口ごもる彩希に

恵巳

どこが良いの? あいつのこと

    恵巳はどこか、思いつめた眼差しで

       再び彩希に問い掛ける

彩希

……ぁ

彩希

なんだか懐かしいね

恵巳

は? え? なに?

彩希

初めて会った頃の
恵巳ちゃんみたい
だなって思って

恵巳

ちょ、いきなり
なに言いだしてんのよ

彩希

昔の恵巳ちゃんに逢えたみたいで
何だか嬉しくなっちゃった

彩希

今もだけど、あの頃の
恵巳ちゃんも可愛かったよね
抱きしめたくなる感じで

恵巳

恥ずかしいこと言わないでよ!

恵巳

大体あの頃は
気が弱かっただけで……

彩希

え~、嘘だよ~
あの頃だって、男の子を
泣かしちゃうぐらい元気だったよ

恵巳

そ、そういうのとは違うでしょ!
大体そういうのは――

恵巳

――彩希が傍に
居てくれたから
出来たことで……

彩希

あっ、そうそう、そういう表情
困った顔だけど、かわいいなって
いつも思ってたんだよ

恵巳

だからそういうことを
言わないの!

恵巳

……もう、恥ずかしいんだからね

恵巳

って、そうじゃなくて!
直刀のどこが好きかって
訊いてるの!

彩希

ぁ、うん……それは――

   恵巳の言葉に、悩むような間を空けた後

彩希

あれ? よく分かんないや

  彩希は自分でも、心底不思議そうに言った

恵巳

分かんないってなによそれ!
はぐらかす気でしょ!

彩希

え? ん~、そういうんじゃなくて

  更に悩むような間を空けて、彩希は応えた

彩希

あのね。直刀先輩の好きな所なら
一杯あるんだよ

恵巳

は? なによそれ?

彩希

優しい所も好きだし
みんなを、ちゃんと
見てくれてる所も好きだよ

彩希

頑張り屋さんだけど
遊ぶ所は遊べる人なのも好きだし
面倒見の良い所も好きなの

彩希

あ、そうだ! ご飯の
好き嫌いが無い所も好きなんだよ!

彩希

あのね、前に菜桜ちゃんと一緒に
お弁当を作った時も、全部美味しいって
食べてくれて。あの時は嬉しかったなぁ

恵巳

ちょ、ちょっと。それって
好きな所だらけじゃない!
それでなんで、好きな所が
分からないって言うのよ!

彩希

あ、ん~と、それはね

彩希

直刀先輩の好きだなって
所なら一杯あるんだよ
すぐに思い浮かぶし。でもね

彩希

だから、好きになったのかな?
って思ったら、違う気がするの

恵巳

え? どういうこと?

彩希

うん、あのね――

彩希

私、気が付いたら直刀先輩のこと
好きになってたの

恵巳

は? なにそれ?

彩希

小さい子供の頃、お兄ちゃん
って呼んでた頃も、好きだな
って思える所は一杯あったの

彩希

でも、それだけだったから
好きなんだけど、好きなだけで
それ以上でも以下でもなかったの

彩希

でもね、それなのにいつの間にか
ちゃんと「好き」って思えるように
気が付いたらなってたの

恵巳

……だから、それ、前々から
好きだったってだけじゃないの?

彩希

それも、分からないの
気が付いたら好きになってただけで
こういう理由だから好き、とか
そういうのが無いの

彩希

あのね。さっき、色々と
直刀先輩の好きな所言ったでしょ?

恵巳

うん、そうだけど……

彩希

でも私、直刀先輩の
そういう所が無くなっても
好きだって、思えるの

恵巳

は? ちょっと、どういう意味よ

彩希

あ、う~ん、それはね――

彩希

なんで好きなのかなって考えて
一つ一つあげていって、それが
無くなったら好きじゃなくなる
かなって思ったけど、そんな事
なかったから 

彩希

思い浮かぶ好きな所
全部が無くなっても
直刀先輩のこと好きなんだよ

彩希

だから、なんで直刀先輩のこと
好きなのかって訊かれたら
好きだから好き、としか思えなくて

恵巳

なによそれ……

恵巳

好きだったら、理由とか
そんなの無くても良いって
思ってるの!

彩希

あ……うん、そうだよ!
そういうことが言いたかったの

彩希

やっぱり恵巳ちゃんは凄いね
ちゃんと私の言いたいこと
分かってくれるんだもん

彩希

なんだか、嬉しいな

      心から嬉しいというように

       笑顔を浮かべる彩希に

恵巳

なによ、それ……それなら……

    恵巳は悩み苦しむような間を空けて

恵巳

す、好きだったら
それだけで良いなら
私が彩希のこと好きでも
良いってことじゃない!

     恵巳は思いの丈を『告白』した

          けれど――

彩希

え……? うん、私も
恵巳ちゃんのこと、好きだよ

       当たり前だというように

          彩希は応える

恵巳

それって……そういうことじゃ……

恵巳

もういい! 知らない!

  彩希の応えに、居たたまれなくなった恵巳は

   走って、その場から逃げ出そうとする

          けれど――

彩希

恵巳ちゃん!

      彩希は手を伸ばし、繋ぐ

恵巳

なによ! 放っときなさいよ!
彩希は、告白でもなんでも
しに行けば良いじゃない!

恵巳

私なんか、放って――

彩希

そんなの嫌だよ

        彩希は言い切った

彩希

私、恵巳ちゃんと一緒が良いもん

彩希

約束したもん。今日は
一緒に遊ぶって。だから――

彩希

一緒に行こう。恵巳ちゃんと
遊びたいの

恵巳

……本当?

彩希

うん!

    満面の笑顔で、彩希は言い切った

    その笑顔と、繋いだ手の心地好さに

    緩みそうになる顔をこらえながら

恵巳

ま、まぁ良いわ。そこまで言うなら
一緒に遊んであげるわよ。その……

恵巳

……嬉しい?

彩希

うん!

恵巳

そ、そうなんだ……

恵巳

好いわよ! その代り
楽しまなきゃ、許さないんだから!

彩希

わわっ!

       嬉しそうに声を上げ

      繋いだ手をぎゅっとして

      恵巳は海の家がある方向へ

     彩希と一緒に走り出すのだった

詰草彩希の告白物語・その④

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