Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦28年
英雄の夢
1
異紡ぎの森の奥深く、誰も近付けないような薄暗い洞窟に、永い間眠っている2つ首のヒドラという怪物がおりました。
身体は15メートルくらいで、青い皮膚はぬめぬめとしています。
普段は静かに眠っているヒドラですが、目覚めたときが人類の最期と言われておりました。
ヒドラは己の食欲を満たすため、大陸、全世界の人間達を飲み込んでしまうのです。
人々は、いつヒドラが目覚めるかと、びくびくしていました。
そしてある日、ついにヒドラが目覚めてしまいました。
ヒドラは言いました。「俺の飯をもってこい。持ってこなければ、世界を踏み潰してやる」
人々は困ってしまいました。
ヒドラのご飯は、人間なのです。
そこに、1人の剣士が現れました。名前を、フェシスといいました。
フェシスは、洞窟に向かうと、たったひとりで2つ首のヒドラを倒してきたのです。
人々は、フェシスを英雄と称え、語り紡ぎました。
大陸東部。
セアト国の中央、アメガ川の上流に、リバーストーンという街があった。
水の豊かな港町。
この時代、海路はまだ発達しきってはいないが、港は多く、外国人も多い。
国の者達は将来を見据え、いずれこの町を貿易港として栄えさせたいと、裏でも表でも動いているようだ。
異国からたくさんの物品が流通するせいか、この街には、神話・逸話といった非現実的な話もよく伝わっている。
“フェシスの英雄伝” もそのひとつだった。
なぁ、母ちゃん、いいだろー?
ダメです!!
ケチーっ!!
リバーストーンでは、水の豊かさを象徴するように、1軒1軒の家に水車がある。
強い太陽の下、バシャバシャと水しぶきをあげて、水車はゆっくりと回っている。
そのわきで洗濯物を干している母親に取り付いて、ラムダは口を尖らせた。
さらさらの茶色い髪。
ラムダは母親によく似ていた。
みんな持ってるモンっ!
フェシスソード持ってるモンっ!!
あんな おもちゃ いりません
ブーっ!!
ラムダのおねだりに取り合わないのはいつもの母親の姿だった。
天気のいい日は、こうして外に出ているのが良く似合う。
口には出さないが、ラムダは母親が大好きだった。
だから、その強固な姿勢に一度おねだりを諦めると、もういいもんっなんて言いながら両手を頭に乗せて川原のほうへと歩き出す。
拗ねた振り。その拗ねた振りを母親は見抜いていた。
見抜かれていることを何となく分かっていた。
川原道はラムダの散歩コースで、やることのない暇なとき、ラムダはいつもここを歩いていた。
空は青く、太陽は高い。
港からの潮風が少し冷たいが、こういう和やかな時間も好きだった。
天道虫を見つけて突いてみると、高い空に飛んで行ってしまった。
しばらく目で追っていたが、太陽に反射して光と化すと興味をなくした。
短い夏草が風に吹かれて揺れ、川の水は澄んでキラキラと太陽の光を反射している。
ラムダだー! ラムダだーっ!!
やーいっ! アクトウのラムダーっ!!
そうやって歩いていると、前から同い年の男の子たちが、フェシスソードを振りかざしながら走ってきた。
見せ付けるようにカッコつけて、ラムダにベーっと舌を出すから、ラムダも怒りだした。
どうしてボクがアクトウなんだっ!!
だってフェシスソード持ってないじゃん!
オレたちは持ってるもんねー
だからってボクはアクトウじゃないぞ!!
うわーっ! アクトウがあばれだしたぞーっ!!
逃げろーっ!!
待てーっ!!
男の子たちは、ラムダがほしがっているフェシスソードを振り回しながら、走っていってしまった。
二人で遊んでいたところに、たまたまラムダを見つけて、少しからかってやろうと思っただけだったのだ。
少し追いかけていたラムダも、追いつかないと思うとすぐに諦めて、追いかけるのを止めてしまう。
……いいなぁ
ボクもほしいな、フェシスソード
この街の子供達は、みんなフェシスソードを持っている。
持っていないのはラムダくらいだ。
ラムダだって当然、フェシスソードがほしい。
なんとか母ちゃんに……
……あれ?
買ってもらえるような作戦を練ろうと考え込むと、どこからか穏やかな旋律が流れてくる。
高く澄んだ音。
聞いた事のない音色。
どこか懐かしい感じもした。
多くのものが流通するこの街では、見慣れぬものに出くわしたとしても、大して不思議ではない。
だが、ラムダはまだ好奇心旺盛な5歳の子供。
興味を惹かれて、音のする場所を目指し耳を澄まして歩き出した。
時々、冷たい潮風の音に高い音を見失いそうになる。
そんなときは、見失わないようにと両目を閉じて、音だけに集中した。
そんな風に音を拾いながらキョロキョロとしばらく歩いていると、
あ
見つけた
川原の3本木の下で、ラムダよりも年上の金髪のお兄さんが、見慣れぬ形の白い笛を吹いていた。