千狸さん、遅くはないですかね

災禍

ふん、大将というのは大仰に守られている者だからな。多少てこずるのは予想の範疇よ

まぁ、ならいいんですが。ところで、災禍殿は今後の展開をどう予想しておられるので?

災禍

連中は恐らく怯えながらも我らに対する怒りで近い日に再びこちらに進軍してくるはず。その時こそ絶好の機会よ。血気に走った奴らほど躍らせやすい者はないからな

ってことは近いうちに戦は終わるだろうと。暇がもらえるなら俺は何だっていいんですけどね。兄弟と相撲でもとってた方が平和だし

災禍

……まぁ、何も言うまい。私は戻るぞ。千狸が帰ってきたら知らせろ

はいはーい

お? 千狸殿かい? 奥で災禍殿がお待ちだ――――

なっ………!?

………この奥か

災禍

誰だ? 千狸か?

……麓の墓場を拠点にしているとは、どこまでも趣味が悪いですね

災禍

だ、誰だ貴様は!! どこの山の鬼だ!?

人間の、松尾軍の鬼です

災禍

意味が分からん……つまり、貴様はあれか? 鬼の分際で人間に頭を垂れたと、そういうことか?

…………

だったら?

災禍

この餓鬼が!! 何があったか知らんが、鬼が人間に頭を垂れただと!! 恥さらしにも程があるわ!!よくも私の前にその面を見せられたな!!

………頭を垂れる

やはり、貴方があの狸を仕向けたんですね

災禍

………貴様、千狸をどうした

斬り捨てました。当然でしょう

災禍

……なるほど、では、見張りの鬼も斬り捨てたというわけか。これはなかなか、腕が立つではないか

災禍

なら、小鬼よ。いっそ人間側を捨て此方につかぬか?

……はぁ?

災禍

貴様もどうせそうであろう? 戦の際に人間共に捕らえられ捕虜として働かされているのだろう? なら、いつまでも奴らの言うことを聞く必要はない。寧ろ今が好機だ。私の元に来れば人間共に復讐の機会を必ず与えてやれるぞ

…………

災禍

貴様も奴らに虐げられてきたのだろう? 屈辱的な扱いをされてきたのだろう? その憎悪を解放する手伝いをしてやろう。連中に苦痛を与えて今度は貴様が虐げる――――

黙れ

災禍

があああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!

何を騒いでるんですか? まだ片手しか刺していませんよ?

災禍

ああああぁぁぁあああ痛いあああああっぁぁぁぁぁぁ!!!!

誰が貴方の世迷い言を聞きますか。何も知らない鬼が偉そうに汚い手を差し伸べて。迷惑なんですよ

一つだけ答えてください。松尾弾正の暗殺を指示したのは貴方ですか?

災禍

なっ……何を言っているのだ……私には理解…………

災禍

ぐあああああああああっっ!!

お願いします答えてください。僕は今自分ではどうすることもできないくらい頭が真っ赤なんです

災禍

あっ……ああああぁあああ………!!

災禍

さっ…………

さ?

災禍

覚!! 覚という妖怪だ!! 奴が妖怪側の全指揮を任されている!! 奴が私を通じて松尾弾正の暗殺を――――!!

……間違いないですね?

災禍

ほっ本当だ!! だから頼む! この手の刀を抜いて――――

仲間を売るなんて……どこまでも下卑た鬼ですね

楓………

僕はもう、昔のようには笑えないみたいだ……

竹内 秀政

…………柳

………殿はっ

竹内 蘭

…………

松尾 弾正

…………

……た、弾正様…………

竹内 秀政

介錯は……儂がやった。死に際はせめて、安らかであったと思う

――――っ!!

っ……ううっ………あぁっ…………

竹内 蘭

柳…………

竹内 秀政

柳よ、これを。殿から頼まれたものだ

柳生

や……ぎゅう……?

竹内 秀政

きっと、其方に姓を与えようとしてくださったのだろう。あの方は、お前を人間として見ていたのやもな

柳生

うっ………ううっ…………

竹内 蘭

……柳、我慢しなくていいよ

柳生

――――っっ

うわああああああああああああああああああああああ!!!!

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