2015年の春。たった一人の肉親だった、おじいちゃんが死んだ。

僕は卒業と同時に、おじいちゃんの遺したコワーキングスペース『ドリーマーズプッシュ』のオーナーになった。

ちなみにコワーキング(Coworking)とは、事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルのこと。

今日もドリーマーズプッシュに、いつもの朝が訪れていた。

赤井健太郎

こんにちは~

青山修造

わ、珍しい。お客さんだ!
しかもすごいイケメン!

赤井健太郎

あのさ。ドリーマーズプッシュってここ?

青山修造

はい。そうです!

赤井健太郎

見学したいんだけど

青山修造

あ、どうぞ

青山修造

そうだ名刺。名刺。

青山修造

初めまして。オーナーの青山修造です

赤井健太郎

はじめまして…。
あ、悪い、俺、名刺持ってないや。名前は赤井健太郎。役者やってんの

青山修造

役者さんかあ。
だからこんなにラフな格好なんだ

赤井健太郎

あんた、下の名前、修造っていうんだ。あの修造と一緒だな

青山修造

あのって、どの修造ですか

赤井健太郎

どのって、テニスのに決まってるだろ

青山修造

ああ。外国に行くと日本の気温が五度下がるっていう、あの人ですね!

赤井健太郎

そう。
修造が帰国すると、冬でも桜が咲き、修造が風邪をひくと嵐が起きる。

青山修造

日本の気候はあの人にぎゅうじられてるわけですね。
ここはもう、いっそ気象情報であの人の位置情報を流すべきですよね

赤井健太郎

あんた、ノリいいじゃん

青山修造

へっへっへ。それほどでも

赤井健太郎

俺、修造が好きなんだ。
あんたもけっこう熱いタイプ?

青山修造

やー、それはどうかなあ

赤井健太郎

修造がオーナーのコワーキングスペースかあ。テンションあがるぜ。あ、見ていい?

青山修造

どうぞ

青山修造

なんか、学生みたいなノリで話しちゃったけど大丈夫かな。
ま、いっか

赤井さんが見学をしている間に僕は水やりの続きをすることにした。

それにしても、かっこいい人だ。
たぶん僕よりちょっと歳上なくらいだろうけど、
足が長くて顔がひどく小さい。

青山修造

同じ人科とは思えない。
役者ってみんなこんなのかな

赤井さんはしきりに部屋の中を見回っていて、
灰谷さんと緑川さんがそれを興味深そうに見つめていた。

緑川(FP)

こんにちは。
ファイナンシャルプランナーの緑川よ。よろしく

赤井健太郎

よろしく

灰谷(ブロガー)

僕は、ブロガーの灰谷。赤井さんって、どこから来たの?

赤井健太郎

俺? あー、東京

灰谷(ブロガー)

へえ、じゃあ僕と一緒だ
なんで松山に?

赤井健太郎

んー、ちょっと色々あって

灰谷(ブロガー)

わかった。プチ移住でしょ?

赤井健太郎

まあ、そんな感じ

灰谷(ブロガー)

流行ってるもんねー。移住

緑川(FP)

灰谷ちゃんも移住組。ブログのネタ探しのためなんですって

赤井健太郎

へえ。松山、どう?

灰谷(ブロガー)

全然だめ。マジでつまんない。遊ぶとこないし、みかんとポンジュース以外ネタないし

緑川(FP)

ちょっと。坊ちゃん団子に失礼よ

灰谷(ブロガー)

女の子喜びそうなとこも全然ないの

緑川(FP)

くるりんがあるでしょ。スタバも

灰谷(ブロガー)

スタバ?
フリーランスもどきの溜まり場ね。
どんなに都会真似したって、人材不足は致命的だよね。井の中の蛙ばっか。
地方の時代なんて嘘だから。
イノベーションは都会でしか起きないから

緑川(FP)

ブログで田舎暮らし最高って言ってるのは
嘘だったの?

灰谷(ブロガー)

東京ディスったほうが受けるんだもん。
アクセスのためだよ

水上

おはようございます
あ、金子ちゃーん

金子(メイク)

いらっしゃい

水上さんはドリーマーズプッシュメンバー、金子さんの友人だ。
金子さんはヘアメイクアーティストで、
水上さんは毎日金子さんに髪の毛を整えてもらってる。

青山修造

中学時代の友達らしいんだけど、ちっとも仲良さそうに見えないんだよなー
女の人ってよくわかんないや

水上

今日は女子会だからー、おしゃかわな感じでお願い

金子(メイク)

わかった

水上

おしゃかわって、オシャレでかわいいって意味なのよ。娘が教えてくれたの

金子(メイク)

そう

水上

あ、フェイスブックにアップしていい?

金子(メイク)

どーぞ

水上

『メイクサロンにきてまーす。なんと、担当は三津浜中学時代のアイドル、金子ちゃんだぞ!可愛くなって女子会行くんだ。ハート』送信!

水上

宣伝してあげたから

金子(メイク)

…そ

水上さんの髪の毛をまとめ始めた金子さんに、
赤井さんは興味を持ったようだった。

赤井健太郎

あの人、ここで店やってんの?

緑川(FP)

ええ。金子さんはメイクアップアーティストなの

灰谷(ブロガー)

自称だけどね

緑川(FP)

余計なこと言わないの

赤井健太郎

店って追加料金いくらで出せんの?

緑川(FP)

追加料金なんていらないわよ

赤井健太郎

マジで?

緑川(FP)

打ち合わせやセミナーも無料。
同伴者も一日1人までならオーケーだしね。なかなかいいでしょ

赤井健太郎

東京のとは全然違うなー

緑川(FP)

お借り得よ!

赤井健太郎

そうか…、よし決めた
あのさ、オーナー

青山修造

ふんふんふーん♪♬

赤井健太郎

水やりに夢中でちっとも気づかないんだけど。
オーナーって、いつもああなの?

緑川(FP)

ええ。よく言えばマイペース。悪く言えば空気を読まない

灰谷(ブロガー)

今時の若者だから

赤井健太郎

若者って全部一括りにすんなよ。
けど、ま、しゃーねーか

赤井健太郎

オーナー

青山修造

ん?

肩を叩かれて、僕はやっと話しかけられていたことに気がついた。

赤井健太郎

あのさ、俺、ここ入るわ

青山修造

あ、ありがとうございます! それじゃあ契約書をお願いします

赤井さんが灰谷さんたちの横で契約書を書き始めると。

支店長

お邪魔します

羽鳥(銀行員)

こんにちは

青山修造

あ!

赤井健太郎

誰?

緑川(FP)

銀行さんよ。支店長さんとここの担当さん

灰谷(ブロガー)

面白いものが見られるよ

赤井健太郎

面白い?

支店長

今日私共がなんのためにここに来たか、
おわかりですね……。

青山修造

は、はい

羽鳥(銀行員)

では、早速本題に入らせていただきますよ

青山修造

うううっ

【RPG@ドリーマーズプッシュ!!第一話】運命の赤い糸

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