いつものように聞こえてきた幻聴は俺の眠りを許さない。
気づいたことは少しずつ聞こえてくる言葉が増えてきたことだ。始めは同じ言葉の繰り返しだったが、今では多くの単語が秋の声で聞こえてくる。
そして今日新しい言葉を聞いた。
……痛い、痛い、痛い
秋………
やめて、やめて、やめて
なんで、なんで、なんで
……秋?
いつものように聞こえてきた幻聴は俺の眠りを許さない。
気づいたことは少しずつ聞こえてくる言葉が増えてきたことだ。始めは同じ言葉の繰り返しだったが、今では多くの単語が秋の声で聞こえてくる。
そして今日新しい言葉を聞いた。
兄貴は何で生きてるの?
!!!
その言葉を聞いて心臓が止まったように感じた。
はぁ……はぁ……はぁ……
俺は……俺は……
なんで生きてるんだろう
秋は容赦がない。
特に今日のはきつかったよ、秋。
最悪な目覚めだ。
寝汗がひどい寝間着を選択かごに入れ、制服に着替える。選択は自分でするしかないが、朝は時間がないのでまとめて洗うことにしている。
朝食は食パン一枚を胃の中に放り込んだ。
行ってきます
もちろん、返事はない。
しかし、この日常の残りかすを消えないようにしないと、俺の心が持たなかった。
やぁ、おはよう、将斗君
……おはようございます名城さん。
待ち伏せ、いや張り込みですか?
声をかけてきたのは名城刑事。
俺はこの人、いや警察自体嫌いだ。
偉そうに事情を聴いたあと、俺を疑って、犯人を捕まえられない。そんな無能な奴らが嫌いだ。
そんなツンツンすんなよ。
別に君を疑ってるわけじゃない。
犯人がいつ戻ってくるかわからんだろ
戻ってきてくれたほうが僕は嬉しいですよ。
だって、
殺せるから?
そんな物騒なこと言うもんじゃない。
次は君を捕まえなければいけなくなる
別に……
それでなんか用ですか?
これでも俺遅刻しそうなんですけど
そうそう、これこれ
名城は懐から袋に入った鉛筆を取り出した。
それは……
いや、よくある鉛筆じゃないですか
これにはネームシートが張られている
「あざいしょうと」、とね
そして、これは君の妹が掴んでいたものだ
……そりゃあ、俺の家に俺の鉛筆があって普通じゃないですか
違う、その鉛筆は俺が小学生の頃無くしたお気に入りだった鉛筆だ。無くした日どれだけ探し回ったことか。
もう7年は経っているものが今なぜ?
妹が持っていた? なぜ? 犯行現場で? なぜ?
顔に出さないように頭の中で疑問をまとめる。
なぜ、君の妹はこれを持っていたのだろうね。
殺されたときに
俺が聞きたいですよ
妹が俺の鉛筆を盗んだ? いや、それはない。
そんな器用な妹じゃなかった。
それよりなぜ犯行現場に七年前の鉛筆があった?
これを僕たちはこう考えてる
ダイイング・メッセージだと
!!
それじゃあ、僕が犯人じゃないですか
だったらいいんだけどね。
残念ながら君のアリバイは完璧だ。
驚くほどに隙が無い
まるで計画されたようにね
そんなに俺を犯人にしたいんですか
いやいや、そんなことはない
おっとそろそろ時間だ、引き留めて悪かったね
いえ、はやく帰って下さい
そそくさと刑事は帰っていった。
あの刑事、鉛筆を見せて俺の反応を見たかったのだろう。残念ながら俺は犯人ではないから大した収穫はないだろう。
しかし、こっちには大きな収穫だ。
あの鉛筆は確かにダイイング・メッセージかもしれない。
妹は最初から持っていたとは考えずらい。
なら、それは妹が犯人から奪い取った?
少し無理があるが思考停止よりマシか。
ならば犯人は小学校の時、俺の鉛筆を盗んだ奴?
はは、ここまでくると笑えて来る。どんな推理をしてるんだ俺は。
しょうとー!
ん?
うつむきながら考えていた俺に誰かが声をかけた。
遅刻確定だぞ?後ろ乗ってく?
助かる文也
けど亜里沙は?
ほいヘルメット
あいつは今日は電車
刑事のせいで遅刻のことはすっかり忘れていた。
文也からヘルメットを受け取ると、バイクの後部座席にまたがる。いつもならここは亜里沙が占領している席だ。
運がいいのやら悪いのやら。
とりあえずは遅刻せずに済みそうだった。