空子とぉー!
唯の……
コネクト・キッチン☆
いやぁー今日もはじまりましたね、唯ちゃん! お料理対決、楽しく頑張りましょうっ
そうだね……が、がんば……がんばる……!
メモリアが結成してからだいぶ経ったある日。
テレビ番組収録のスタジオにて。
はつらつとMCをする空子と、ひきつった笑顔の唯が、テレビカメラに映されている。
二人ともエプロン着用姿だ。
今日も私の助手に楓ちゃん、唯ちゃんの助手は千乃ちゃんがついてくれています!
よろしくおねがいします。ぜんりょくで、さぽーとさせていただきます
えへへ。……千乃は……今日はお仕事忙しかったから、ちょっと眠たいんだぁ
あ、あぁぁっ! 千乃ちゃん、はじまる前から寝ちゃだめだよ~? ふぁいとふぁいと!
ち、千乃。わたしを一人にしないで
うつらうつらとしている千乃に、スタッフからどっと笑いが起こる。
スタジオは和やかで良い雰囲気だ。
収録現場に足を運んだ僕も、ほっと胸を撫で下ろす。
……そんな僕のところに、番組のディレクターが近づいてきた。
どーも! アナタがプロデューサーさんね! いや、キミのところのアイドルたち、個性的でとっても良いね~! よろしく頼みますよ!
あ、はい。こちらこそお世話になります
メモリアの3人にオファーが来たのは数日前。
地方のテレビ局だが、番組の1コーナーを任されることになった。
まだまだ新人アイドルの彼女たちには、大切な仕事だ。
収録は、週末に一気に3本撮り。今撮っているのは3本目で、唯が疲労の色を隠しきれていないのは仕方ない。
実際の放映に使われるのはほんの短い時間だが、毎度料理を作らないといけないのだから、撮影時間はどうしても長引いてしまう。
今日はどんな食材を使いましょうかっ?
みんな新鮮で美味しそうで、とってもワクワクしちゃいますっ
山積みの食材を前にして、疲れた様子を全く見せない空子は大したものだ。
まぁ、唯の場合は、疲労の原因が違うところにあるのは分かっているけれど……。
そらこさん。なんでももうしつけてください。さぁ、さぁ
コーナーのメインに二人と、助手に二人欲しいと言われて、スケジュールが空いていた楓が空子の助手を引きうけてくれた。
楓は目をきらめかせ、ブンブンと包丁の素振りをしつつはりきっている。
わ、ちょっと待ってね楓ちゃん。うーん、どれを使おうかな? にんじん、ごぼう……。
あ、きんぴらごぼうなんてどうでしょうかっ
さすがそらこさん。おめがたかいです。おみずのじゅんび、しますね
キッチン設備のところへ移動し、さっそく調理に取り掛かる空子チーム。
…………まったく……
ふと、隣にいる番組ディレクターが、何やら不機嫌そうだった。
……
さすがに僕も芸能関係者だ。その理由くらいは分かっているけど……。
それ以上に気になるのは、唯チームの方だ。
唯と千乃の二人は、まだ食材コーナーの前でもたもたしている。
千乃……この果物、何だっけ。わたし料理しないから、調理後の姿しか知らない……
それはアボカドだよ唯さん。でも何に使うんだろうね? アボカドって料理が上手な人が使うイメージかも?
上手な人が使うなら美味しいはず……。アボカド……これで行くっ!
キメ顔で宣言して、手に取ったのは大量のドリアンだった。
あああ唯、それはまったく違うものなんだ……!
千乃は~これとこれとこれ~♪
千乃の方も面白がっているのか、納豆やチョコレートなんて、とんでもない食材ばかりチョイスしている。
アボカドと生ハムが合うって……確か聞いたことがある!
包丁を使わず、皮のままのドリアンを叩き割る唯。粉砕されたドリアンに豪快に生ハムを巻いていく。
っっ!? ち、千乃。このアボカドすごく臭わない……?
んー、なんでだろ? 生だからかな? 焼けばおさまると思う!
なるほど。それもそっか
えへへ、じゃあ千乃はソースを作ってあげるね
この二人の調理は、スタッフには大受けしているけど……。
不器用すぎる唯と、独創的すぎる千乃。コンビとして、問題が大ありな気がする。
はい、できましたっ! きんぴらごぼうですっ
ほかほかごはんと、あついお茶もよういできてます
一方の空子チームは、堅実にきんぴらごぼうを完成させていた。
美味しそうな見た目と安定感に、ホッとする。
で、できた……!
カオスな調理手順を経て、唯チームもなんとか完成にこぎつけた。
もはやなんだか分からない黒焦げのものに、極彩色のソースが和えられていた。食材の面影はない。
審査員による試食タイムに入り、空子チームのきんぴらごぼうは美味しいと好評だった。
唯チームの方は完全にネタ扱いされて、判定しようがなさそうだ。
今回の料理対決、勝者は――空子チームです!
司会者が空子チームの勝利を告げた。
え、えへへ。ありがとうございます!
でもでも、唯ちゃんたちのお料理も、インパクトがあって素敵でした! ではまた次回、お会いしましょう~!
空子が笑顔で手を振って、収録は無事終わった。
* * *
* * *
あ、プロデューサー! いつも見ていてくれてありがとうございます! おつかれさまでした!
まだまだ元気いっぱいの空子が、嬉しそうに駆け寄ってくる。
空子、おつかれ――
春宮空子さん、だったよね。少しお話しいいかな?
僕の言葉をさえぎって、番組ディレクターが、空子に声をかけてくる。
あ、はい! もちろんです!
キミさ、明るいのはいいんだけど、番組の趣旨を理解しきれていないんじゃないかな
えっ?
キミの作る料理は、調理シーンも、完成品も、地味すぎて使いづらいんだよ
助手の楓さんや、対決チームに笑いかけたり励ましの声かけたりしてて、和やかなムードでこれじゃあ対決の感じにならないし……
唯ちゃん千乃ちゃんの方が、ずっといい仕事してくれてるよ? 毎回盛り上がって、大爆笑だよ
そ、そうですか。ごめんなさい……
やはり番組ディレクターは、空子のことが気に入らなかったのだろう。
これ以上彼に喋らせたら、きっと注意どころか、無闇に空子を傷つけようとしてしまう。
……すみません。お言葉ですが、空子はコーナーの進行役として立派に――
口を挟もうとしたのだが、空子に袖を引かれて止められてしまった。
……えへへ
ディレクターは不穏な気配を感じたのか、おずおずと口数を少なくした。
……次からは頼みますよ
はい! 頑張ります!
ディレクターが立ち去っていく。
大丈夫かい、空子
僕は釈然としない気持ちで空子の方を見たが、空子は目を輝かせていた。
ふわぁ、奥深いですね、お料理番組……!
私、もっと研究してきます!
……はは
空子がどこまでも前向きな子で良かった。
て、テレビに…!!(涙がジワリ)