正木先生

おいおい、せめぇな。

るり

な、何ぃ! 正木の分際で!
女の子の部屋に上げて
貰えるだけで感謝しなさいよ!

真悠

正木先生すみません。
確かにここで六人は
無理があったかもしれません。

 今日は私・大神 真悠(オオガミ マユ)の誕生日。高校生活最後の誕生日だ。月曜日にもかかわらず、正木先生を始めクラスメイトが集まってくれた。

 私は親元から離れこの1Kのマンションに一人で暮らしている。一人で住むには充分だけど、誕生日会をするには狭すぎたみたい。

龍太郎

まぁまぁ、
狭くても良いじゃん。

 メガネを掛けているのは龍太郎。高校一年から二年三年とずっと同じクラスの腐れ縁。気が弱そうだけど、本当に弱い。草食男子に見えて、草すら食べない感じ。

正木先生

龍は大好きな真悠の
部屋に来れるだけで
本望だもんな。

龍太郎

ななな何言ってんの叔父さん。
別にそんなんじゃぁ……

真悠

ま、正木先生、
そうやってからかうの
止めて下さい。

 私達をからかったのは、正木(マサキ)先生。私達の担任で、龍太郎の叔父さん。性格は見ての通り軽くてテキトー。伊達に人生経験が長いわけでなく、雑学全般に強く、変な空手(?)の有段者らしい。

るり

あっ! もうビール開けてる!
もうすぐアゲハ達が
来るんだから待てないの!

 正木先生に声を荒げて飛ばしているのは、やっぱり三年間同じクラスのるり。強気で前向きな性格でいつも励まされている。先生の事を正木って呼び捨てにしてるけど、好きみたい。言われたわけじゃないけど、隣で見てると流石にわかる。先月るりの誕生日の時に、先生から貰ったミサンガをずっと大切につけてるし。

正木先生

プッハー。
やっぱ仕事終わりの
一杯はたまらん。

るり

も~!

真悠

まぁまぁ。
確かに正木先生仕事で
疲れてるだろうし、
飲ませてあげよ。

るり

甘やかすとすぐに
調子に乗るよ。この人。

龍太郎

確かに……。
それにしても遅いね、
アゲハちゃん達。

アゲハ

ヤッホー、お待たせー。
友也君連れてきたよー。

正木先生

おう、おせぇぞ、
おめぇら。
早く上がってこい。

 調度良く、話題になったアゲハが来てくれた。明るくて元気なムードメーカー。クラスの人気者だ。こんなにも元気にしているけど、最近、お兄さんを病気で亡くしたみたい。

友也

…………。

 寡黙なこの人は友也君。いつも一人で居るのに気を使ってか、アゲハがやたらと声を掛けている。悪い人ではないのだけど、何を考えているのか分かりづらい。

アゲハ

よぉーし!
それじゃ、早速、
真悠の誕生日会始めよっ♪

正木先生

おっしゃー!
飲むぞーー!

龍太郎

あんまり、飲みすぎないでよ。
家まで連れてくの
大変なんだから。

正木先生

『大変』って言葉は
大きく変わるって読むんだ。
その大変な事を成し遂げた奴は
すげぇ成長出来るって事だぜ。

るり

って、どこかの偉い人が
言ってたんでしょ。

正木先生

その偉い人の隣近所の人だ。

真悠

また正木先生の
テキトー話。

 買ってきた色んな料理と共に、皆の会話で賑わいだした。そして、プレゼントの時間になった。やっぱり皆が私の為に用意してくれた物を見るのは心が躍る。とっても楽しみで顔が緩む。

アゲハ

るりの誕生日会と
一緒だよね?

るり

そうよ。
皆のプレゼント混ぜちゃって
誰からの物か分からなくするの。

龍太郎

友也君、先月居なかったから
分かんないだろうけど、
これがなんだか面白くって。

友也

わかった。
楽しそうだね。

 友也君はすぐに理解したみたいだったけど、顔は全然楽しそうじゃない。

正木先生

俺のプレゼントはなぁ~
あれだ、なんつーか
ヤバイぞぉ~。

るり

アホがばれるから
喋らない方がいいんじゃない。

 そしてシャッフルの時間が来た。私は後ろを向いて、一人づつ大きな袋にプレゼントを入れていく。時々笑い声が聞こえてきたりするんだけど、その気持ちは分かる。喜んで貰えると思って、ついつい笑みが零れる。私はドキドキしながら、色んな想像を膨らます。

 そんな事を考えていると、るりの合図がきた。全員入れ終わったようだ。

真悠

皆ありがと。
それじゃあ、出していくね。

世界の魔術大全

真悠

ああーっ!
これ私が欲しがってた本。
これってもしかして……

るり

WEB小説書くのに欲しいって
言ってたわよね。
まっ、誰のプレゼントかは
分からないけどね。

 私がネットで創作物語を書いているのは、近しい人なら知っているけど、この本の事は、るりしか知らない。とぼけてるけど、絶対にるりだ。凄く高かったのに……、バイト代奮発してくれたんだ。ありがと、るり。

救急箱(ミミック)

友也

!?

正木先生

それは、
救急箱、かっこミミックだ。
どうだすげぇだろ。

るり

はぁ~。
誰も期待はしてなかったわよ。
しかも自分って
言ってるようなもんだし。

真悠

あはは、は。
可愛いぬいぐるみ。
ありがとございます。
正木先生。

 そして残りのプレゼントもどんどん出していった。皆の気持ちが嬉しくってちょっとウルッてきちゃった。


!?

真悠

あれ!? もう一つ
プレゼントが入ってる。

 もう一度、取り出したプレゼントを見ると5つある。一人一づつだと当然5個。明らかに一つ多い。

 袋の中に入っていたのは、20センチくらいの箱だった。

 真っ黒な下地に深い青色の装飾。鍵穴が一つあり、箱のいたる所に、見たこともない文字がビッシリと張り付いている。

るり

正木ぃ~、どうせあなたでしょ?
バレバレなんだから。

正木先生

いやいや知らねぇって。

アゲハ

先生のはあの
救急箱だよね?
てかあれは先生以外に
買う人想像出来ない。

正木先生

まさにその通り。
って事は俺無罪。

るり

だから、
誰かが二つ入れたって事でしょ?
もう白状してよ。

アゲハ

じゃぁ、やっぱり
先生でしょ。

正木先生

あれ?
俺なの?
もう酔ってるから
そんな気がしてきた。

龍太郎

あはは、なるほど。
こんな作戦もあったか。

友也

…………。

 沈黙が部屋を包んだ。私も普通のプレゼントならそう思うんだけど、物が異様な雰囲気を放ってるせいか緊張感が増してきた。

るり

中身は何かしら?
え!? こ、こ……ぇ……

正木先生

よっし、俺が開けてやろう。

 るりから箱をふんだくった正木先生は箱を開けようとする。しかし、箱は全く開く気配はなかった。

友也

特段開かないとかかな。
アンティークで、
眺めて楽しむとか。

アゲハ

まっ、
貰える物なら貰っておけば
いいんじゃないかな?

真悠

そうね。
誰のか分からないけど
これが本命のプレゼント
かもしれないしね。

 私はその箱を他のプレゼントと一緒に貰う事にした。

るり

何か、いや、
きっと、気のせいよ。

次の日へ続く 

2月16日 月曜日

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