――DAY 0――
夜
月もこの町も、随分丸くなったもんだ
それとも丸くなっちまったのは俺の方かい?
――DAY 0――
夜
ふふっ
……それはねぇな
紫煙くゆらすアダムスキーの隣で、
セミョーン・モルチャリンは……
同じ煙草を口にしながら、
楽しそうに、笑った。
会うのは何年ぶりだろうな
1年前に一瞬だけ町ですれ違ったっきりだ。
話したのは3年前ぶりだな
ああ、『あの時』ぶりか
お前との縁はこれきりだ
もしお前が再びここに来たら、この町に手を出そうってんなら……そのときは、ただじゃおかないぜ
……
親友よ、またいつか会おうじゃないか?
敵として?
そうだな、……
……不倶戴天の仇と、
厄介な猟犬として?
……今のところは、退こう
あの時からお前が変わったようには思えねぇな
この町は「まだ」軽度な方だったな
ああ、町人たちは信仰心を植え付けられていただけだった。
記憶と洗脳はそう簡単には消えずとも、元凶を追い出せば良い
実際に追い出すのは「部外者が勝手にやったこと」だ。
そうやって俺は憎まれて消えれば良い
同時に、たとえ余所者でも対立していたように見せれば俺に頼る気にもなる。
そうやって安心させて、アフターケアは俺が請け負う
……お前には損な役回りをさせてるよな
俺が? 冗談だろ?
お前と違って俺は忙しいからな。ひとつの町に縛られるのは無理ってもんだ
この3年、お前はよくやったよ
お前にそう言われると気持ち悪りぃな
……いや、やっぱり俺は冷めちまったのかもしれねぇな
空は曇り始め、
湿気が煙を濁らせていく。
……炎のような男、というのがいるなら、あんな男のことを言うんだろうな
何があった?
アダムスキーは瞳を閉じ、眉を顰めた。
変わった日本人がいるってだけさ
……
やめとけ
何がだ?
熱く刹那的に揺れ動く不安定な炎
そんなのは情報屋には似合わない。身を焦がして破滅するのが見えてるぜ
……っはは。
俺も物好きなもんだ
そんな二人を知るのは、
この後数日、雲の帳(とばり)に隠され、
告げ口もできぬ月だけ。