シン・アスカセラ。ストリエ内に夥しい量のイラストを投稿する、稀代のイラストレーターである。

彼は死の直前、己のイラスト群を用いた、とある魔法を生み出した――

魔王城地下・牢屋

勇者

くっ……なんということだ……

勇者

敵の本拠地に乗り込んだはいいものの、魔王の姿すら見られずに囚われてしまうとは……

勇者

このままでは死を待つのみ……しかし、武器は全て奪われ、魔王を倒すことはおろか、この牢屋から出られるすべすら無い……!

勇者

私が倒されたら……王国があの忌まわしき魔族共の手に……どうすればいいんだぁ!

……勇者よ……

勇者

!!

勇者

だ、誰だ!

……力が欲しいか……?

勇者

何者だ! 姿を見せろ!

いいだろう……

これでいいか?

勇者

な……き、貴様は……魔王か!?

いや、違う……私は使いだ……稀代の魔術師である、シン・アスカセラのな

勇者

シン・アスカセラ……? まさか、王国に古くから伝わる、伝説の魔術師の、あのシン・アスカセラか!?

左様……
力が欲しいか……? 望むのであれば、シン・アスカセラが人生の最期に編み出した、神秘の力を授けよう

勇者

……怪しい男だ……しかし、今は四面楚歌の状況。これ以上悪くなることはあり得ないだろう……だったら……

勇者

力が欲しい

いいだろう……それでは授けよう。シン・アスカセラが生み出した、秘法を……

さぁ、今お前が望むものを、口にしてみろ

勇者

望むもの……やはり一番欲しいのは……

勇者

ここの牢屋を開ける、鍵だ

勇者

お……おおお!! 鍵だ! 鍵が現れたぞ!

これぞ魔法の力……名前を口にすることで、シン・アスカセラが過去に生み出した数々の道具を、目の前に現出させることができる

ただし魔法の行使にはいくつか条件がある……まず一つは……

勇者

ありがとう! この力があれば、私は無敵だ!

あ……おい、待て!

ゴレレレレ……

勇者

見張りはゴーレムか……丸腰で挑むにはやや厳しい相手だが、今の私には魔法がある

勇者

よし……まずは、剣だ! 現れろ!

勇者

…………へ? な、なんで?

勇者

け、剣! 剣! どうした、出てこい!

ゴレっ?

勇者

あ……

ゴレーーーーーッ!!!

勇者

う、うわーーーーー!!

お、戻ってきた

勇者

きっさまぁぁぁぁぁぁぁ!!! 全然使えないじゃないかぁぁぁぁ!!!

ゴーーーーーレーーーーーッ!!!

うおおおおおおお!? に、逃げろーーーーー!!!

勇者

このほら吹き男が!! 折るぞその角!

お、お前が話を聞かないのが悪い! 魔法の行使には条件があるんだ!

魔法で生み出す際は、しりとりでなければならないのだ!

勇者

あぁ!? どういうことだ!

だ、だから、お前が最初に言ったのは「かぎ」だろう!?

だから次は「き」か「ぎ」! そのどちらかで始まるものしか生み出せない!

勇者

なにぃぃぃぃぃ!? そんなん最初に説明しろよこの馬鹿!

勇者

まぁいい、しりとりで言えばいいんだな!? えぇっと、き、き……!

勇者

金属の盾っ!!

勇者

よし、これでひとまず!

ゴレーーーー!!!

勇者

えぇっと、次は「て」か「で」だな!? じゃあ……

勇者

手斧だ!

勇者

よしきたぁっ!

いいぞ! その調子だ!

勇者

何がその調子だぶん殴るぞ!

い、いいからそのゴーレムを倒せ!

勇者

分かってる!! くらえぇっ!!

ゴレェェっ?

勇者

くっ、駄目だ、まるで効果がない……! 鈍器で砕くしか……!

勇者

えっと、の、の……の……!

勇者

のこぎりっ!

いやそれも切断系だろう! 何を考えているんだ!

勇者

黙れぇぇぇ!! 思い浮かばなかったんだから仕方ないじゃないかぁぁぁ!!

ゴレエエエ!!

お、おい! 盾がもう限界だぞ! 早くしろ!

勇者

り……り……り……!

勇者

リンスーーーー!!!

勇者

くらえー!! お前の目にダイレクトアターック!!

ご、ご……

ゴレエエエエエエエエエ!!!!!(目が痛いいいいいい)

勇者

な、なんとか倒した……!

時代考証を考えろ! なんで中世風の世界にリンスなんか出すんだ!

勇者

これ以外思い浮かばなかったんだから仕方ないだろう! いいからさっさと行くぞ! ついてこい!

……あれ、なんか、いつのまにか仲間扱いされてる……

勇者が脱獄したぞー!

捕らえろー!

勇者

結局ピンチには変わりないじゃないか! どうするんだ!

魔法を唱えるしかないだろう! 早く! 早く! 「す」か「ず」だ!

勇者

くっ……そうだ、これだ!

勇者

スープ!

勇者

よしっ! くらえーーー!!!

ぎゃーーー!!!

あついーーー!!

勇者

いまだのうちに倒すぞ! お前は鋸を使え! 私は手斧だ!

い、いや、私はそろそろ……

勇者

いいから黙って倒せーーー!!!

勇者

ふぅ……なんとか雑魚は倒したな

あぁ疲れた……

勇者

スープのいい匂い……腹が減ってきたな……そうだ

勇者

フルーツ!

勇者

ふはは、豊作だ。お前も食うか?

大分使いこなしてきたようだな

勇者

まぁな。さて、いただきまー……

魔女

待てい!

勇者

むっ……新手か

魔女

よくも魔王様の城をスープまみれにしてくれたねい! 許さないよ!

勇者

ふん、いふぇいのふぃくふぃをひふぇるふぉもふぃまのふふぃふぁ

もの食べながら話すなよ

勇者

ふふ……ようやくまともに戦えるときが来たぞ

勇者

つるぎ!

勇者

武器もようやく勇者らしくなった。正々堂々勝負だ! いくぞーー!

…………

…………

…………

勇者

う、うう……死ぬ……

……お前大して強くねーじゃねーか!

勇者

う、うるさい……

魔女

口ほどにも無い子だねい。これで終わりだよ!

勇者

く、くそ……こうなったら!

勇者

金の延べ棒!

勇者

こちら差し上げますから、どうか魔王の元まで……

魔女

まぁ~♡ いいわよ~♡

…………勇者失格だな…………

勇者

さぁ! ついに着いたぞ! 魔王の元へ!

金で懐柔して来たのにどうしてそこまで立派でいられるんだ

勇者

いざゆかん!

お、おおいちょっと待って、ちゃんと作戦を立ててから……

開けちゃった……

魔王

よく来たな、勇者よ。死ぬ覚悟はできたか?

勇者

死ぬのは貴様だ、魔王……! この私が、必ずお前を討ち取ってみせる!

魔王

ふふ……威勢のいい小娘だ……だが……

勇者

なっ……か、身体が動かない……!

魔王

俺の手に掛かれば、貴様らなどこの通りよ

勇者

ふっ……だからどうした?

魔王

なに……

勇者

身体が動かずとも、口さえ動かせれば、私の勝ちだ

魔王

生意気な物言いを……そのまま吹き飛ばしてやる!

お、おい! 早くしろ! どうするんだ!

勇者

そう慌てるな。完璧な作戦を思いついている

勇者

まずは……牛!

こ、こんなもの呼んでどうするつもりだ!

勇者

これに意味はないさ。最後が「し」で終わるならなんでもよかった

勇者

そして……しから始まり、今のこの状況を打開できるものといえば……もう、決まっているだろう!

まさか……

勇者

そう……私が最後に唱えるのは……

勇者

シン・アスカセラ!! この魔法を作り出した、最強の魔術師だ!! お願いしてアイツを倒してもらう!!

お前さっき自信満々に「この私が討ち取ってみせる」とか言ったよねー!?

勇者

これで私の勝ちだ! 彼なら、いや彼女かも知れないが、しりとりなぞせずとも自由自在に唱えられるだろう!?

い、いや……私も、実はどんな人物なのか知らないんだ……

勇者

そうか、だったら共に見ようじゃないか! 最強の魔術師が、再び現世に蘇る瞬間を!

勇者

出でよ、シン・アスカセラーーーーーー!!!!!

勇者

………………

………………

魔王

………………

……たぶん。

魔王城を攻略せよ

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