寒……。

 嗅いだことの無い匂いが立ち昇る、炎を含んだ円筒形の機器に、かじかんだ手を翳す。

電車、来ないねぇ。

 その機器の上で四角い白いものを炙る老人の聞き取れない言葉に、尤理は首を傾げ、すっかり白くなってしまった硝子窓へと目を向けた。

寒い……。

 温もらない背中の震えが、暖かいはずの掌を冷たくする。

雪、降りすぎ……。

 町や村を管理する人工知能の修理は終わったが、これでは、帰れない。

 と

はい、できた。

 不意に、串に刺した白いものが目の前に差し出される。

食べな。

は、はぁ……。

 熱で膨らんだそれを尤理が受け取ると同時に、老人も、そして臭気も、消えた。

えーっと……。

 何も無い、暖かくなった空間に息を吐き、手の中の串を見つめる。

これは、食べられる、もの?

匂いは、美味しそう、だけど。

とりあえず、食べてみるか。


 香ばしい匂いにつられ、尤理は焦げた端を小さく囓った。

pagetop