闇色に沈む水の色に背中の震えを覚え、そっと息を吐く。
なんか、……嫌な感じ。
闇色に沈む水の色に背中の震えを覚え、そっと息を吐く。
でも。
それでも、揺れ一つ見せないその水面に見入られてしまうのは何故だろうか? 変化の無い、鈍色の空と蒼黒い海とを、尤理はただただ見つめ続けた。
その昔、尤理が今腰を下ろしている丘の頂には『展望台』というものが建っていて、多くの人々が、眼下に広がる無数の光を眺める為にこの地を訪れていたという。
二百年ほど前に起きた『大災害』によって人々の生活が一変し、光が海に呑まれてしまってからも、展望台を改修した、人工知能とともに街や町を管理することを職務とする『管理者』用の研修施設に泊まった者の中には、遠のいた水面と人々の生活が発する光の渦を見たという者もいる、らしい。
そんな昔の残滓なんて、何処にも無い、よね。
溜息とともに自分を嘲笑う。
噂は、噂でしかない。しかし期待する自分がいるのも、確か。
だから尤理は、明日からの『管理者』としてのハードな研修のことを忘れ、ただただ、あくまで平穏な海面に見入っていた。