あの山は、遠くから眺める姿が一番美しい。
あ、あの、山……。
あの山は、遠くから眺める姿が一番美しい。
そう、尤理に言ったのは誰だっただろうか?
都市と都市とを結ぶ高速鉄道の車窓に映る、雄大な孤高の姿に、尤理はそっと記憶を探った。
山頂の白は、雪の白。それは正しい。
だが、山腹の青は、本当は灰色。
今も活発に生きるこの大地が吐き出した溶岩が冷えて砕けた、不毛の砂礫の色。
えーっと、確か。
……思い出した!
学校が長期休暇に入る毎に、都会に住む、人々の生活を人工知能とともに管理する『管理者』であった母の許に尤理を行かせるという理由でこの高速鉄道に乗せてくれた、若い頃は今の尤理と同じように都会ではない街や町を管理し、祖母と結婚してからは山麓担当の『限界管理者』となった祖父の言葉だ。
じいちゃん、元気かなぁ。
その祖父の、博識で謹厳な影を思い出し、尤理は少しだけ目を細めた。
その一瞬で、映っていたはずの山が消える。
二百年以上も前に起こった『大災害』。大地の活動の果てに消えてしまった景色を、尤理はもう一度、ただ静かに、自分の脳裏に思い浮かべた。