綺麗な花畑だ。

色とりどりの花が辺りいっぱいに敷き詰められている。


風も穏やかで気持ちがいい。
花で一杯なのに歩いてみても足がくすぐったくない。

花弁が鼻をくすぐった。

紅い花弁が風と共に空へと舞い上がる。


青く澄んだ空も相まって、流れる花弁がより鮮やかに見える。

ゆっくりと横になってみる。


鼻や草の絨毯がとても寝心地がいい。
優しい風と共に蜜の甘い匂いが鼻を満たしてくれる。

気持ちがいい

なんだか、そんな気持ちになったのは初めてな感じがした。

願うなら、もう少しこのままで

深雪

んっ……

NE-1023

おはようございます、深雪様

深雪

うん、おはよう

すごい

躰が嘘みたいに軽い。
頭もスッキリして、不快なモヤモヤがない。


何より、ものすごく清々しい。

目覚めって言うのは本来こんなにも気持ちがいいものなのか。

ただ、死ぬ夢を見なくなったというだけで。
雨雲がなくなったような、晴れ間が訪れたような感じだ。

NE-1023

体の調子はいかがですか

深雪

……すごく良いです。頭も軽くて

NE-1023

赤い薬は就寝前にのみ支給される決まりとなっております。時間を空けずに服用することは禁じられていますので、なにとぞご了承を

深雪

そうなんだ。眠くなったらすぐにもらえるものと思ってたんだけど

NE-1023

強い薬には比例して強い副作用がございます。どうぞご理解ください

深雪

……そっか。なら仕方ないね

問題はない。
また寝る前にもらえばいいだけだ。

丁度起きtばかりだし、眠気はない。
どうせならちょっと外に出てみようと思った。


紗耶香さんとも話したいし。

深雪

あれ? 紗耶香さんの部屋って何番だっけ?

20番台だったのは覚えてるのだ。

ただ、あの時は紗耶香さんの様子が気になって、部屋の番号を聞き流してしまっていた。


そういえば、勝手に部屋に入るのは大丈夫なのだろうか。
紗耶香さんが寝てたりはしないだろうか。

けど、メイドさんも何も言ってなかったし、ダメなら事前に言ってくれるだろう。

私は、そう考えて20番号室をノックする。

深雪

返事がないな……

やはり、寝てるのだろうか。


だとしたら、邪魔したら悪い。
せっかく寝てる最中だというのに私が来たせいで起こしちゃったら申し訳ないし。


おとなしく部屋に戻ろうとした時、ドアの向こうから叫び声が聞こえた。

深雪

どうしたんだろう……?

もしかしたら、紗耶香さんに何かあったのか?


悪夢にうなされてるのだったら、傍にいてあげたい
私は思い切って部屋に入った。

うっ……うあぁ……!!

深雪

あの……

深雪

っ!!

凄い音がした。

一瞬で身の毛がよだつような歪な音。


誰かの頭を壁にぶつけているような音が。

…………

なんで……なんでだよ………!?

マモル様、どうかお止めください。このままでは肉体の損傷が限界を超えてしまします

だったらよこせよっ!!

深雪

…………っ

申し訳ありませんが、前回の服用から目が覚めて2時間しか経っておりません。時間を空けずの多重の服用は禁じられており――――

そんなもん知るか!! 眠いから薬もらって何が悪いんだよ!! 先のことなんかより今俺は寝たいんだよ!!

薬の時間を空けずの服用は禁じられており――――

殺されたくないから薬を飲んで何が悪いんだよ!!

そうか

この人も殺される悪夢を見るんだ。
きっと毎日のように体を斬り刻まれる夢を見てきたのだろう。


薬によって悪夢を見れなくなると言っても、それは一時的なものだ。
薬がきれてしまえば、また悪夢を見てしまう。

その恐怖はすさまじいだろう。

一度平和な夢を見た後だ。
悪夢が与えるダメージは更に大きくなる。


そうなれば、私達は薬に頼るしかなくなるんだ。

そして、薬を持っているのはメイド達だけなのだ。

はあーっ、はあーっ……ん?

男は壁から視線を外した。

そして、そのまま私を見る。


入口で立ち止まっていたから、余計に目立っていたのだろう。


男の目に、狂気的な光が戻った。
血まみれの顔が歪み、穏やかな笑みを貼りつけて歩み寄ってくる。

……なぁ、アンタ誰だ?

深雪

え、えっと……私は…………

持ってるんだろ?

深雪

えっ――――

深雪

ああっ…………!

何が起きたのか、反応が遅れた。

男は突然私の首を掴み、押し倒したのだ。


顔に男の血がしたたり落ちる。
息がだんだん苦しくなっていく。

持ってんだろ!! 薬持ってんだろ!! よこせ!! よこせよ!!

苦しい。

男がどんどん力を強めていく。

私なんかじゃ全然敵わない。
苦しくて涙があふれてくる。



視界がぼやけてきた。

このまま私は殺されるのかと思った――――

深雪

けほっ……こほっ……

・・・・・・・・・・・・

男の胸から手が突き出していた。

苦悶の表情で倒れる死体の後ろに、金髪のメイドが立っていた。

…………

男に開いた穴からおびただしい量の血が流れる。


私はよろめきながら立ち上がると、メイドを見る。
彼女は血だまりの中で、それでも目を開けずに立ったままだった。

…………

メイドは何もしゃべらない。


私はそのまま、逃げるようにその場から立ち去った。

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