…………

…………

……きみ、何者?

え?

まあ答える義理はない、か

「ヤバイ奴」はできるだけ殺したくないんだよな

ヤバイ奴?!

僕のこと?!

素手で刃物押さえ込もうとする奴のどこがまともなんだよ?

たしかに……

霊深度


00




後先考えないで行動しちゃったけど、これ、どうすれば良いんだろう

……ははは

意外と火事場の馬鹿力って強いんだな

……

……まあ、そう思いたきゃ思えば良いさ

え?

ちなみに……
もし僕がこのまま鋏を閉じて指を切り落としたら、どうする気だ?

・・・


・・・


・・・

あっ

やっぱり考えてなかったか……

フツウ気づくだろ?
それが何故だ? なんでこんな鈍いくせに、トロいくせにこの行動力で動ける?

何故、最適解を、導き出せる?

今、なんて言った?

なあんでも、ないさ?

ククク……

……な

なにが、可笑しいんだ!!

なにも。何も。なあにも

嬉しいだけさ!!
こんな手があったなんてなぁ!!!

「こんな手」……?

じゃ、オレは帰るよ。
「それ」はテキトウに処分しといてくれや

手放した?!

急に増した重みが、予測できなかった行動が、僕の動きを一瞬遅らせた。


急な力の向きの変化に、そのハサミの重量に、僕はついてゆけなかった。

しっかりと握っていたはずの手を、放してしまう……

待っ……

ハサミに引かれ前のめりになった僕の額を、何かが殴りつけた。

じゃ。

また会わないといいね?

声が遠い。
それとも僕の、耳が遠い?

は……はは……

僕……なにやってんだろう……

おい! 大丈夫か?!

あれ……おかしいな……

なんでまだ昼なんだろう……

……良かった、まだぼんやりしてるみたいだが、命に別状はなさそうだ!!

ぼ、く……

怪我もないみたいだな!!

け、 が?

両手……無傷 ?

意識がはっきりしてきたみたいだな。君、立てるか?

えっと……

うん、元気そうだな。
奇跡みたいだが、本当に良かった。
少しだけ簡単な検査と話を聞くのに署まで来てもらうが、それが終わったら今日のうちに帰れるかもしれんぞ

あ……話、ですか

きみはここで殴られたかしたから分からんだろうが、ここから少し離れたイベント会場で通り魔が出てね。
そいつがこんな離れた場所まで被害者たちを追い回していたそうだ

きみも、何か見たかね?


そうだ、ここに人が、女性が……

……………………

助からな、かったんですね……

ああ……きみだけでも、助かって良かった。
きっと気が変わったか、警察が来て逃げたんだろうな

……

きみは……犯人の顔を、見たのか?

犯人……

「見た」なんて遠巻きなものじゃなくって、あれは……
まるで夢みたいに、対話して、そして……

……でも

この違いはなんだ?

僕が見ていたもの、体験したのはもしかして夢?

僕は、なんて答えればいいんだ?

 ―― 

――落ち着け

?!

どうした?!

いえ……

 ――だから、落ち着けと 
 言っているだろう? 

そうだな。……背後から殴られたことにしろ。何を聞かれても「憶えていない」で通せ

あっ、えっと、たぶん後ろから殴られたみたいで、何も……

……

幸い、お前が殴られたのは頭頂部より後ろ寄り。これ以上変に動揺を見せなければ、被害者のお前は疑われず、変なボロを出すことはないだろう

そうか。――目覚めてすぐに、すまなかったね

パトカーに乗ってくれ。今日は検査を済ませたらそのまま帰ってくれて構わないよ、疲れているだろう?
荷物は載せてある

この変な声に従って、なんとか切り抜けたけど、それより……

途中で落としてきたはずの荷物も、ここの近くに落ちていたことになってるのか……?

……言っておく

内心ではいくら驚こうと構わんが……
表には、表情には、絶対にそれを出すな。
絶対に、だ。

できるな?

……

こ、こう?

……まあ、及第点か

あ、あなたは誰なんだ?!
どうやって僕に話しかけてる?
そして、なんで僕に「言うな」って言うんだ?
あの殺人鬼が言ってたことと関係があるのか?!

それだけ脳内がパンク状態なのに
その平静さを装えるのは上等だ

だが、今は説明してやれない

今だけでなく、当分無理だな

何故?!
もったいぶるのはやめてくれ。
僕はおかしくなったのか?

可笑しくなどないさ。
ただ、時間がない

時間?

今から以後、誰に聞かれようと、お前の体験を一部なかったものとして話せ。

お前が納得することより優先すべきこと……それは、お前が「生き延びること」、「疑われないこと」だ

生き延びる……?

それも今は説明できない。
いまこそお前と話せているが、以後、私はお前の睡眠時にしかお前と対話できないだろうからな。
圧倒的に起床時のお前に説明する時間がない。
まずは絶対行ってはならないことを言うので精一杯だ

「私」……脳内のこの声の存在を隠せ

あの男と話した内容を隠せ

もし深く事情を説明する必要が出てきたときには、それでもこの2点は絶対に言うな

今晩また会う。
その時にもう少し詳しく説明してやる

だから、今は

ただ、今日のうちに家に
帰りつくことだけを考えろ。

貴方は……誰?

……愚問だな。

お前が今、生きて家まで
帰りつくために、
一番無駄な思考だ。

-00「僕となるもの」八

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