もしかしたら。

屋上に行けば。


忠告をくれた女の子と会えるかもしれない。

俺は中庭を後にすると、そんな事を考えながら

全力で階段へと走りこんでいた。


今はもうそれに賭けるしか

この危機を回避する方法はない。

茜と分かれてからそんなに時間も経っていないし、

屋上には鍵がかかっていて立ち入り禁止のため、

茜には屋上に行く理由はないのだ。


考えられる事で一番確率が高いのは。


忠告をくれた女の子が悪魔の気配を察知して、

茜を連れ出してくれた可能性。

「命の鎖」を見破れる女の子ならば、

悪魔と渡り合える力があるかもしれない。


そんな希望を胸に全力で屋上まで駆け出す。

鏑木 貴幸

あっ……

屋上へと続く扉まであと少しという所で、

足が縺れて転び、財布や生徒手帳を

床に落としてしまう。

鏑木 貴幸

くっ、こんな時に……

床に落ちた物を拾っている間にも、

悪魔の足音はだんだんと上に上がってくる。



迫り来る恐怖で手が震える中、

財布をポケットにしまう事は成功するが、

生徒手帳を取り落として、中が開いた状態になる。



これは今年の体育祭で撮った茜の写真……?



茜は激しい運動が禁止されているので、

この日も見学ではあったが、

友達の浅倉さんのおかげで、

終始笑顔で過ごす事ができた。



2人は中学から同じ学校で、いつも仲良く

一緒に時を過ごしてくれていたので、

俺は浅倉さんの存在が凄く頼もしく……。

鏑木 貴幸

えっ!?

そこで自分の記憶に違和感を覚えたため、

挟んであった写真を取り出してみると、

そこには茜と浅倉さんが仲良く微笑んでいる

姿が写しだされていた。

鏑木 貴幸

新崎さん……新崎さんは!?

今日昼休憩での時も新崎さんは一緒にいて、

いつも3人仲良く学校生活を送っていた。


でも、この写真にも俺の「今の記憶」のどこにも、

『新崎 杏奈』と言う存在は出てこないのだ。

記憶の齟齬で頭が混乱している最中も、

階下から足音が聞こえてくるため、

俺はすぐに生徒手帳を拾って、

屋上へと続く扉のノブを捻った。

すると、そこには茜の姿と

上坂 茜

……

新崎 杏奈

……

新崎さんの姿があった。

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