そして俺はくるりと背を向ける。すると、赤ずきんと売り子ちゃんが血相を変える。
あ、あれは……!!
それで、その後どうなったの?
魚はそのままジャンプして、どこかへ飛んでいっちゃったんだ
太陽に焼けて美味しくなってなきゃ良いけどね
そ、そうだね……
う、うわぁ!
どうこれ、試食販売用なんだけど、上手く焼けてるでしょ?
あ、う、うん。そうだね……
この魚大きいねぇ。まるで狼さんの言ってたあの魚みたい
あ、さっき二人のしてた話? 無い無い! だってこれ、一昨日入って来た冷凍食品だもん!!
そうか。まぁ、俺が見たのは今日此処に来る前だからな。……さーて、気を取り直して仕事しますか!
そして俺はくるりと背を向ける。すると、赤ずきんと売り子ちゃんが血相を変える。
お、狼さん!
首輪に何か挟まってるよ!!
えー? そんなわけ……
ひ、干からびる……
うわぁー!!
実は昔、「Q~(きゅ~)」って雑誌の一面に、送った写真が載ったことがあるんだ。
可愛い宇宙人でも見つけましたか?
そんな凄いの写したら、送らずに家宝にしておくよ
……ってことなんです
小さな魚をとりあえず水の中に放ち、魚が息を吹き返したところで、俺達はおおよその事情を聞いた。
その情報を簡単に言えば、魚はあの大きな魚が飛んだ時、偶然あの魚のひれに掴まっていたらしく、一緒に飛んだ衝動で俺の首輪のもとまで落ちてきてしまったのだそう。
それにしても、狼さんよく気づかなかったね
俺、魚には興味無いから
いや、そういう問題じゃないでしょ。っていうか、でっかい魚には興味あったじゃないの
あんだけ大きくて綺麗だったらそりゃあ見るでしょ~
でも困りました……このままこの狭い水槽の中で生きていくわけにはいきませんし
……じゃあ、帰ろうよ、湖へ!!
そうは言うけど、どうやって? 歩けるわけでも無いのに……
歩く? それなら……赤ずきん、前にネズミのお客様にやったやつ、出来ないかな?
ああ、あれね~!!
お魚さんよ、人間にな~れっ!!
こ、これは……!
か、可愛い……
魚には興味無いんじゃなかったの?
ご、ごめんつい
これで歩いて帰れるね!!
でも、帰り道わからない……
狼さん付き添ってあげなよ
いや、でも仕事あるから!
あ、そっか
かと言って、俺が終わる頃って言ったら元に戻ってるだろうしな
そしたらまた干からびちゃいます
第一、真っ暗になったら案内出来るものだって出来ないわよ
うーん……
た、度々すみませーん。此処に落し物届いてませんでしたか?
落し物ですか? 落し物と言えばこれくらいですが……
す、すみませーん、有難う御座います!
可愛いポエムみたいな日記でしたよ
な、中見たんですか?
すみません、つい~
……そうですか。それじゃあ私はこれで
あ! そう言えば、お客様って瞬間移動出来るフラフープ持ってましたよね!?
持ってますけど、それが何か?
それ、一度貸していただけませんか? お客様が故郷に帰りたがっているんです。
イヤですよ。勝手に人のノート見るような人になんて……
春うららかな日曜日、晴天の空の下、私の心は雨模様
わーっ、わーっ、わーっ!!
野の花綺麗ねつぶやいた、貴方の涙、虹映る。早く晴れろと私は
きゃー、きゃー、きゃー!!
この日は何にもなかったヨ
無いんかい!!
わ、分かったよ……フラフープ貸してあげるからもうやめて
分かったヨ
やめてヨ!!
さ、これに足を踏み入れるの。出来れば飛び乗るのが一番かな。行先は願った場所に繋がるからね
はいはーい! じゃあ私が先に
あ、ズルいぞー!! 俺も
ちょっと、レジは……まぁ一瞬ならいっか。私も~
ちょ、ちょっと! そのフラフープは……って、もういないや
それじゃあ、私も、失礼致します
はい、行ってらっしゃい
俺達は湖に真っ逆さまに落ち、赤ずきんや俺は泳いで体勢を持ち直し、魚のお客様は落ちていた丸太にしがみついた。
つ、つめたーい!
ここ、湖の上じゃないか!!
す、すみません。私が湖と願ったばかりに……。
た、助けてー!!
泳げないのか、売り子ちゃんはバシャバシャと脚と手を動かしてもがいていた。俺が助けに行こうと泳いで移動したのだが、途中尻尾をつってしまい、今度は俺が溺れかける。
お、狼さん大丈夫!?
ごぽっ、ごぽぽっ
て、店員さんが沈んでく……!!
魚だろ、泳いで助けられないのか?
人間になってから、感覚が掴めなくって……あっ
こんな小さな体じゃ、もう駄目だー!!
俺は尻尾をつってるし、魚のお客様は元の小さな姿に戻ってしまったし、赤ずきんは俺の肩を掴むので精一杯。どうしよう……。
と思ったら、赤ずきんが俺を掴みながら前へ前へと泳ぎ始めた。……だが、この距離じゃギリギリ間に合わないか……。
あれは……!!
白く大きな魚が飛び跳ねた直後、湖へと潜り、売り子ちゃんを背に乗せて水上に浮かんだ。
見つけた!
魚のお客様が白い魚の上に乗ったので、赤ずきんも俺を引っ張りながら泳いで白い魚の上に乗った
それを確認すると、白い魚は岸辺へと向かい、俺達は無事地上に足を付けることに成功した。
アリガトウ
俺達が地に足を付けると、白い魚と魚のお客様はそのまま去っていき、俺達はその後ろ姿にずっと手を振り続けていた。
……ところで、どうやって帰るの? コレ
!!
!!
このフラフープ、戻ることは出来なかったんだけど……大丈夫かな、このレジの列