目を凝らして周囲を見渡す。

 この螺旋階段は、見覚えがあるものだった。


 確か、転げ落ちた階段のようにも思える。

待っていた

デューク

……

 扉の前に立つのは先代幻獣王。オレの祖父だった。

 亡くなった時の姿のまま、優しく微笑みかける。

 なんで、そんな顔をするのだろう。



 オレは、貴方が築いた全てを台無しにしたのに。
 威圧感のある表情で睨んで、怒鳴っても良いのに


 穏やかな声で、告げる。

複雑そうな顔をするなよ

デューク

まさか、ここで会えるとは………

この扉を開くためには罪を吐きだせ。まだ誰にも告げていない、お前に秘められた罪を

デューク

そうか………それで、貴方だったのか

ここで待っているのは己の罪だ………お前は、儂に対して強い罪悪感を抱いていたのだな…………

デューク

………ごめんなさい、オレは一族が築いてきた全てを台無しにした。幻獣王としての力を捨ててしまった

デューク

………お爺様の最期の願いを叶えることが出来なかった

デューク

父上と兄上が……

本当に親不孝者たちだよ……老い先短い現当主より先に死ぬとはな

デューク

………お爺様

デューク、お前は死なせないよ

デューク

嫌だ。どうせなら………一緒に………

儂に孫殺しをさせないでくれ……

デューク

………っ

……お前にコレを授けよう。幻獣王の証とか、そんな、たいそうなもんじゃない儂の御守りじゃ。

デューク

ナイフなんて、人間が使うものでは

だから、御守りだ。儂と契約しようとした人間が儂に置いて行った魔法のナイフ。切っ先に念じれば探し物の場所に導いてくれるそうだ。

デューク

…………受け取ります

幻獣王の血を遺す為にも、お前は生きてくれ

 あれが、最後の会話になってしまった。

デューク

オレは……幻獣王の力を放棄してしまった。血を遺したいと言った貴方の最後の願いを裏切った

………お前を幻獣王にするつもりはなかった

デューク

………

皆が共に支え合って生きることを望んだのに、集落の連中はお前を責めてしまった。お前だけに押し付けた。お前が未熟だということは最初から知っていたのに。彼らは幻獣王という存在に依存しすぎていたのだろう

デューク

オレが弱かったからだ。弱かったから………

 道を歩けば、こんなのが幻獣王で大丈夫なのかと不安の声を聞く。


 どうして跡取りでもないデュークが生き残ったのだと、罵声を浴びせられることもあった。


 理不尽な誹謗中傷に耳を塞いで、うずくまる日々を過ごしていた。



 ミランダと出会い、彼女と契約を交わしたとき……これが一族に対する裏切り行為だということを自覚していた。

デューク

オレはいけないことだと知っていてミランダと契約を交わした。オレは弱かったからミランダを喪った。そんな弱いオレが幻獣王になれる気がしなかった。オレはミランダとの約束を理由にして幻獣王の力を放棄したんだ

………

デューク

ミランダとの約束は大切だった。だけど、心の何処かで、この力を放棄すれば、幻獣王としての役割から逃げられるって思っていたんだ

お前は弱くはない

デューク

え?

魔法使いと契約を交わせるのは、それなりの獣だ。お前には魔法使いの力となる資質があったということだ。それは力があるということだ

デューク

………オレに力が……ある?

実は、儂も以前に魔法使いから契約を求められたことがあったんだ

デューク

………

儂は断ったがな……どうにも信用できなかった。疑い深かったのだろうな。あの男は悪い男ではなかった。それを信じることが出来なかったのさ。そんな心の狭い儂とは違って、お前は心が広い

デューク

心が? そんなはず……

どんな形とはいえ、魔法使いとの契約に成功したのだ。それは、お前が相手を信じた結果だろう

デューク

ああ、オレはミランダを信じていた

それに、お前は出会った獣たちの声に耳を傾ける。そんなことをするから、数多くの人間から憎まれたのだろう。我々など、故郷の集落に引き篭もって、訪れる獣のことしか救おうとしない

デューク

………

お前が、幻獣王の力を放棄したことを罪だと感じるのなら……そのまま背負っておくと良い。その心もお前の一部だからな。ついでに、一緒にこれも忘れるなよ

デューク

………

お前は、優秀な自慢の孫だ。どんな罪を背負っても、それだけは変わらない

デューク

………はい

さぁ、扉は開いたぞ

 罪を語ったはずなのに心が痛くない。

 先代の幻獣王は威厳があって、穏やかで、優しくて……理想の王だった。

 もう一度、会えるとは思えなかった。

 オレは深く深く頭を下げる。

ラシェル

……っ!! デューク!! 目の前が真っ白になったよ。ビックリした

デューク

………ラシェル

 扉の前にあった祖父の姿は消えていた。
 視線を動かせば、ラシェルの視線とぶつかる。

ラシェル

………わ、驚いた。どうしたの?

デューク

いや、何でもないよ………扉、開いたみたいだな

ラシェル

そうだね

 一人だったら辿り着かなかったかもしれない。
 この扉を開けなかったかもしれない。

 だけど、大丈夫だ。

デューク

開くぞ

ラシェル

うん

39 Forgetting~忘却8(獣の罪2)

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