裏切ることは、簡単だ。

信じることは、難しい--------。

逢坂

暇だなぁ……

五月の昼下がり。今日はとてもぽかぽかしている。

眠気がとろんとやって来たが、とりあえず頬を叩いて吹き飛ばす。

店の外に置いてあるベンチに腰掛ける。

お客様の来ない日は、大抵此処で読書をしたり、ぼうっと近所のおばあちゃんたちと話をしたり。

突然来たお客様に対応できるように、寝たりはしない。

さっきのように眠気がやって来た時は、掃き掃除をしたりもする。

逢坂

掃除は朝もしたんだよなぁ

依頼人が来ない日は……暇だ。

にゃあ~

逢坂

ん、また来たの?……ふふっ、くすぐったいなぁ

足元にすり寄ってきた近所の猫を抱き上げると、頬に頭をぐりぐりしてきた。

逢坂

猫は、いいなぁ……

思わずつぶやいてから、ハッとした。

逢坂

いけない、いけない。

ないものを欲しがることがどれだけ虚しいことか、僕はよく知っているはずなのに。

逢坂

駄目だなぁ、こんなんじゃ

まだ構ってほしそうな猫を地面に下ろして、ため息を吐いた。

その時ちょうど、電話の音が鳴り響いた。

小走りで店内へ移動する。

逢坂

はいはいっと……。もしもし

鳴海 雪菜

もしもし。こんにちは。……記憶屋さん、で、間違いありませんか

……依頼だ。気を引き締める。

逢坂

はい、間違いありません。記憶屋でございます

第二話へ、続く。

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