妖怪軍 本陣

連中、こちらの策に気づいたかな?

災禍

気づくものか。主軍と本陣をわざわざ分断しているのだ。我々のように戦場を上から見れねば人間が気づくことはあるまいよ

……ならいいんだが。今回の作戦、狸からは何の苦言もなかったのか?

災禍

苦言などあろうはずがない。私が化け狸を忍びとして編成した時に「情は捨てろ」と教え込んである。奴らは主命のためならば自分や仲間の生命も駒と扱える

…………

だが、首は所詮贋作だ。もし本陣から本物が出てきたらどうするよ?

災禍

心配ない、その時は嬲り殺すまでよ

人間軍 本陣

久道……様…………?

松尾 久道

どうした鬼よ? 私に何か用なら言ってみよ

…………っ

竹内 秀政

まぁ久道様、気を静められよ。柳よ、お前は高山殿の部隊に配置してあったはずだ。何故ここにいるのだ?

…………

松尾 弾正

…………柳

はっ、はい

松尾 弾正

その打撲痕は何だ? 誰にやられた?

これはっ……高山様に………

竹内 秀政

高山殿がか!?

松尾 久道

馬鹿を言うな! 高山殿が暴行を働くはずがなかろう! 適当なことをぬかすでないわ!!

松尾 弾正

久道は黙っていろ。柳、続けろ

私を殴った後、高山殿は僕を放ちました。僕を使って独自に鬼と交易しようとしていたのです

松尾 久道

あの者……何を勝手な真似を……!!

松尾 弾正

……続けろ

放たれ、鬼の山へ向かう途中の小山で、偶然前線の様子を見ました。我らの軍は徐々に鬼の軍によって本陣から引き離され、その時に兵の叫び声を聞いたのです

竹内 秀政

叫び声?

久道様が討たれた、と

ぐあっ……!!

松尾 久道

よくも言ってくれたな。この汚らわしい人でなしが

ぐっ……!!

松尾 久道

前線で私が死んだ!? 貴様の妄想ではないのか!! 普段虐げられてる人間たちの驚く顔が見たかったのではないのか!! どこまでも薄汚い、傲慢な、恩知らずの捕虜ふぜいが!!

松尾 弾正

止めぬか、久道!!

松尾 久道

父上もいい加減目を覚まされよ!! こいつは人ではないのです! 我らを諫言で惑わそうとしているのです!! こいつを生かす価値など、どこにあるというのですか!!

松尾 弾正

青二才が分かったような口を利くでないわ!!

松尾 久道

がっ…………!?

竹内 秀政

お二人とも、今は戦の最中ですよ? 陣中で争っている場合ですか。それに、柳の聞いた声が嘘である証もないのです。無為に殴ることは慎まれよ

松尾 久道

…………っ!!

松尾 弾正

……島、いるか

島 清明

ここに。ちょうど報告したいこともありましたので

松尾 弾正

申せ

島 清明

彼の鬼……柳の言は真にございます。多くの兵が久道様が討たれたと錯覚しており、両翼の部隊にまで動揺が広がっている模様

島 清明

また、殿が危惧していた東西の出口から鬼の軍が友軍を囲むように現れました。対処しきれなかった部隊が既に敗走しております

松尾 久道

…………何だと?

竹内 秀政

馬鹿な……そこまで押されていたとは

松尾 弾正

…………

島 清明

このままでは壊走は必至です。殿、どうか指示を

松尾 弾正

……よかろう、馬を呼べ。動ける者だけ騎乗せよ

竹内 秀政

殿?

松尾 弾正

遠くから眺めていたところで戦局など覆らん。これより全軍で前線に突っ込むぞ

松尾 久道

正気ですか!? 総大将が自ら敵陣に突っ込むなど……

松尾 弾正

前線が崩壊するのは時間の問題。どうせ座していたところでいつかは刎ねられよう。今大事なのは前線の士気を上げて少しでも味方の討死を防ぐことぞ

松尾 久道

……分かりました

松尾 弾正

秀政、至急突撃を準備をしろ!

竹内 秀政

はっ!

松尾 弾正

柳、お前はおれを被れ

…………これは?

松尾 弾正

一時的とはいえ鬼であることを隠すのは大きな利点となる。こうなってしまった以上お前も戦力に数えさせてもらう

松尾 弾正

…………背中は任せたぞ

…………っ!!

……はい

竹内 秀政

殿、準備できました!

松尾 弾正

よし。秀政、お前は久道を守れ。間違っても奴らに本物の首をくれてやるなよ

竹内 秀政

承知!

松尾 弾正

久道も用意は良いな?

松尾 久道

いつでも問題ありません、父上!

松尾 弾正

良かろう! これより全軍で前線に突撃する!! わしに続けー!!

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