ざわつく教室の中。
毎朝行われているあいさつからの無言の流れに俺は慣れてしまった。
俺の輝かしい高校生活は、入学して初めの席替えで隣になった女子、一条睦美のせいで早くも曇り始めていた。
俺は自分の席に座って荷物を片付ける。
そして、ひと段落したところで一条をちらりと見た。
お!おはよ
おはよう
……
……
ざわつく教室の中。
毎朝行われているあいさつからの無言の流れに俺は慣れてしまった。
俺の輝かしい高校生活は、入学して初めの席替えで隣になった女子、一条睦美のせいで早くも曇り始めていた。
俺は自分の席に座って荷物を片付ける。
そして、ひと段落したところで一条をちらりと見た。
今日の英語、
当たるよな
そうね
予習してきたか?
あなたに関係あるかしら?
……ないな
特に話すこともなくなった俺は、ため息をついて一条から視線をそらす。
俺の隣の席の一条睦美は、コミュニケーションがうまくない。
うまくないとかのレベルじゃない。
コミュニケーションを放棄している。
もう他人に興味ありませんって感じですげぇやな感じだ。
初めは、外部生の俺だから警戒とかそういうものをされているのかと思った。
俺の問いかけに、この女は必要最低限のことしか答えない。
俺だって一応傷つくんだということをこの女はわかっているのか。
むかつく。マジでむかつく。
しかし、その態度は俺だけではなく近づくものすべてを傷つけていた。
そんなせいか、入学してからすぐにこいつは軽い孤立をした。
当たり前すぎて本人もこの状況を受け入れている。
まぁ、たまに隣のクラスから友達っぽいのが来るが、あれは友達にカウントしていいのかまったくわからない。
そいつとの会話だって……。
あら、おはよう
おはよう。
今日は暑いわね
ブレザー脱ぐとちょうどいいよ
そうなの。
お昼はどうするの?
一人で食べたい
わかったわ
こんなもんだ。
友達なのか。これは友達といっていいのか。
俺は毎回困惑している。
ついでにその子の取り巻きたちは、あんまりいい気はしていなみたいだし。
よくわからん。
困惑して眺めていたら、
そんなにじろじろ見られると
気分が悪い
お、おぅ、すまん
……
……
こんな毎日だ。
なんなんだろう。
俺はどちらかというと成績もいいし、まぁ人当たりはいいほうではないけど、高校に入ってしっかりと友達もできたし。
きっと人としてそこまで悪い方じゃない。
むしろそこそこのいい男だったりする。
最近出た序列とかいうのでは一桁だったし。
なのにだ。
この女は俺を空気みたいに、たまに濁った空気みたいに扱う。
……俺何かしたっけか。
身に覚えがない。
あ、涼。
おはよー
おはよー
そんなことを考えていると、クラスメイトに声をかけられた。
朝早いな
ああ。
まだ一人暮らしに
慣れてなくてな
それでなんで早く来るんだ?
遅刻しないように
気を張ってると
わけわかんねぇくらい
早く起きちまう
そっかぁ。
涼は一人暮らしなんだよな
ああ
高校生になるタイミングで親が他県へ転勤になった。
俺はどうせ生活が変わるならと親に頼んで一人暮らしを始めた。
転勤、引っ越し、入学金に一人暮らし費用とお金はかかっただろうが、親は俺に一人暮らしをさせてくれた。
初めて訪れるこの校区には不思議な制度があった。
生徒同士が順位を競って明確な序列をつける。
そして、与えられた序列の中で生徒たちは生きていく。
中学でくすぶっていた俺は自分の力を試せるのかと半ば興味本位で入学した。
そしてこの制度に驚きを覚えた。
初めはなんてめんどくさいと思ったけれど、あの人が俺をこの高校でなら自分を試せるといった意味が分かった。
この制度はとても厳格なものだった。
俺はわくわくした。
のにだ。
席替えしたら、この氷のような女と出会ってしまった。
……氷は言い過ぎか。能面のような女との出会いだった。
さて、隣の席の反応ほぼない一条は序列11位だ。
ついでに俺に与えられた序列は9位。
成績、運動神経、顔、人望。それらすべてで俺に下された順位は170人中9番目。
俺の新学期はほんの少し、ややこしい状況からスタートした。