その日、牧と一緒に学校へ行くと机が落書きされていた。
 
微妙な違和感を覚えて、三宮君に視線を移すと、疲れたように読書をしている。
彼と目が合うことはなかった。
 
その時、あたしは気が付いた。
三宮君に何かあったんだと。
 
牧が自分の席に荷物を置いている間に廊下に出て、家から持ってきていたスポンジに水を浸して教室へ戻る。
手伝ってくれる牧と二人で机の落書きを落としていると、油性ペンの中に鉛筆で文字がかかれていることに気が付いた。



ごめんね。

 


たった一言。
それだけ、筆跡が違った。
動きを一瞬止めたあたしに牧が気が付く。

どうしたの?

絢香

これ

ああ、そうだね。
それっぽい

絢香

逆に、今までありがとうだよね

あたしがそう言うと、牧は頷いて誰かに見られる前にそのメッセージを消した。
それ以降、彼を意識的に見ることをやめた。

机の掃除を終えて、机の中に危ないものが入ってないか確認する。
以前のカッターの刃みたいな危ないものから、腐った何かからいろいろ出てきた。

うわー、今日も大量だね

絢香

いつか、これどこから持ってきてるのか聞いてみたいよねぇ

持ってくるまでが大変そうだよね

 
二人で掃除していると、また、不思議なものが出てきた。
ノートの切れはしに、急いで書いたようなメモ。


神崎 ごめん

絢香

……、これは私に謝っているのか、彼に謝っているのか

この字って

絢香

うん。
なんかされたっぽいね

何気ない風を装って田島君を探すとすぐに目があって、ゆっくりと視線を外された。
彼なりの誠意ってやつなんだろう。

苦笑して牧を見ると、無情にもそのメモをゴミ袋に入れる。

絢香

ば、ばれない?

このゴミ漁る人なんていないし。
それに、ちゃんとべちゃべちゃしてる方に押し込んだから、大丈夫

牧はゴミ袋のふたを閉めた。
そうこうしていると、拓也が図書室から帰ってきた。

拓也

あれ、今日早いね。
何にもされなかった?
黒田に

絢香

君たちが威嚇してから黒田君はビビッてるから、まだ

拓也

そう。
今日は机汚いんだ

絢香

協力者が2人減ったんだよ

拓也

……そっか

拓也と話していると、牧はゴミ袋あたしのロッカーに入れに行った。

絢香

牧さん

なに?

絢香

なんでそこ

いや、なんか後でまとめて捨てに言った方が、効率的?

絢香

そうなんだけど

一緒に捨てに行こうね

絢香

みんなで行こうね

二人で笑いあっていると、朝練組の匠と千裕も教室に入ってきた。

今日も、また、めんどくさいいじめの一日が始まると思うと、少しだけ億劫になった。

それでも、友達がまだ残っていることがうれしかった。

44時間目:消化不良(1)

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