瞬間移動の魔法で祭壇の洞窟へ移動とした村長である母を追うため、俺と2人の幼馴染は月明りに照らされたフォーレスタの森を駆けていた。

シュー

…こんな風に走るのは、お前が旅立って以来か…何だか懐かしい感じだ

サリット

シューったら大袈裟な…アコードがアルモと旅立って、まだひと月位じゃないの!

アコード

そうか…俺がこの村から旅立ってから、まだそれしか経ってないのか…

シュー

…それがどうかしたか?

アコード

いや、アルモと旅立ってから随分といろいろなことがあってさ…
もう1年位この村から離れていた感覚なんだよ…

 アルモと共にフォーレスタ村を旅立ってからひと月余り。本当にいろいろなことがあった。

 途中立ち寄った村の寺院での、レイスとの戦い。

 ガイーラ・レイスとの合流と、王都へ向かう途中に遭遇したワイギヤ教軍の将軍との戦い。

 王城への侵入と、ガイーラに扮していた敵将との戦い。

 そして、世界の理と俺の一族の秘密…

 全てはアルモがこの森を訪れ、狂気に満ちたコボルトを今ここにいる俺たち3人と共に退けたことが起点となっている。

 俺は、目に見えない大きな力によって、俺とアルモ、そして2人の幼馴染の運命が動かされているように感じずにはいられなかった。

シュー

まぁ、かく言う俺も、アコードが旅立ってから自警団の団長に就任したり、王都から避難してきた人々の対応をしたりで、アコードと同じような感覚ではあるんだけどな!

サリット

確かに、アコードやシューと一緒にいた頃の自警団とは比べ物にならない程、このひと月は忙しかったわね…

アコード

2人とも、俺のわがままで忙しい思いをさせてしまって、すまない…それに、今回のことも…

サリット

もぅ!アコードったら…

シュー

そういったこと全部含めて、俺とサリットはお前についていくって言ったじゃないか!!

アコード

ありがとう…シュー。サリット

 気付くと俺たち3人は、CA…三日月同盟の紋章が刻まれた洞窟の前に到着していた。

サリット

…ついたわね

シュー

そう言えば…この洞窟、どうやって入ればいいんだ?

 シューが疑問に思うのは、もっともなことだった。

 何故なら洞窟の入口は、大岩で固く閉ざされているからだ。

サリット

アコード。この扉の開け方、知ってるの?

アコード

…昔、母さんから聞いたことがある…

アコードの母

試練受けし者。己の力を信じ、扉の前で祈るべし。魔力応えし時、扉は開かれる

シュー

魔力応えし時?

サリット

入口を塞いでいる大岩に魔力があって、アコードの祈りが届けば大岩が動くってこと?

アコード

なにぶん、小さな時に母から聞かされたことだったからな…
サリットが言ったように俺は理解していたけど…

 月明りに照らされ、洞窟を固く閉ざす大岩が淡く光っている。

シュー

!!アコード!!!その体、どうしたんだ?

アコード

どうした…って………!!!?

 シューに言われて確認した俺の目に映ったのは、淡い光を放つ俺の右腕だった。

サリット

アコードの魔力に、大岩が反応して、いる!?

アコード

…そう踏んで間違いないだろうな…

シュー

…ていうことは…

アコード

後は、俺が祈るだけ、か…

 刹那、俺は右膝を地面につき、両手を合わせ目の前で組むと、目を瞑り天に向かい祈りを捧げた。

シュー

アコード!

 今まで体感したことのない力の流れを感じた俺が目を開くと、体全体を覆っていた淡い光は、周囲を昼間と勘違いさせる程の眩い光へと変貌していた。

サリット

アコード!大丈夫?

アコード

ああ…むしろ気分が良い位さ…

フォーレスタの血を受け継ぎし者よ…
私の子孫よ…
今こそ扉を開くのだ!!

アコード

!!

シュー

今度はどうした?アコード…

アコード

声が…今、声が聞こえなかったか?

サリット

シュー、聞こえた?

シュー

いいや、何も…

アコード

2人には聞こえていないのか…

アコード

今、声が聞こえたんだ。『扉を開けよ』って…

サリット

それって、アコードにしか聞こえていないんじゃないのかしら?

シュー

フォーレスタの村長を引き継ぐ資格のある者にしか聞こえない声、とかじゃないのか?

アコード

恐らくは、そんなところかも知れない…

サリット

アコード!シュー!見て!!

 サリットの指さす方向を見ると、先ほどまで淡い光だった大岩の輝きが、直視できない程眩くなっていた。

 そして大岩の輝きは、俺の身体と一筋の光で繋がっていて、俺から光を吸収しているような動きを見せている。

シュー

…アコードの光を、あの石扉が吸収しているように見えるが…

アコード

ああ。だが、それで良いみたいだ

 俺は、光を吸収し続ける大岩を指さす。

サリット

…あっ…大岩が…

 俺から光を吸収し続ける大岩は鈍い音と共に、少しずつ横へと動いていく。

サリット

…開いたわね

シュー

見ろっ!大岩の光が…

 大岩は横に移動し切ると同時に、急速にその光を失い、ただの大岩へと戻っていた。

 同時に、俺の身体を取り巻いていた眩い光も少しずつ収まっていき、数秒後にはいつもの状態へと戻っていた。

アコード

よし!扉は開かれた!!シュー、サリット。行こう!!

サリット

アコード…どうやら、そうは問屋が卸してくれないみたいよ…

 サリットの言葉に、鈍い音のする後方へと目をやる。

シュー

…石像が…動いている…

アコード

来るぞ!!

 兵士を象った石像の一撃を寸でのところで避けた俺たちは、石像を囲むように三方向へと散り、瞬時に臨戦態勢を整えた…

 第4話 に続く

Episode6「ワイギヤの血筋」 第3話 ~試練の始まり~

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