ロイエ国 城前広場

         そこは今

      王の上意をたまわるべく

  千を超える群衆がひしめき合っていた

      異様な熱気が満ちている

     身動きすらまともに取れぬ中

     この場に居る全ての表情には

     誇らしげな自負が見て取れた

      それを城の窓の一つから

        覗き見る男が一人

お~お~毎度の事ながら
壮観な眺めだねぇ

     ロイエ国の人間、では無い

     商いの神、ミトラを信仰する

      商業国家ヤーマの人間だ

サーカスを見せてやる
とか言われてここに案内されたけど

悪趣味な見世物だよ
ロイエ国国王さんよ

      心の中で悪態を吐く

       気にする所は無い

    何しろ思うだけならばタダだ

    気兼ねする必要がどこにも無い

他人の銭を当てにして
たかろうってのに
こんな物みせて

どういうつもりなんだか
あの不滅王は

     変わらず悪態をつけながら

    冷めた眼差しで群衆を見続ける

    その眼に人を見る柔らかさは無く

    商品を値踏みする硬さがあった

       事実、この世界で

    十本の指に入るであろう大商人

      シチーリ・リシッツァは

     国とそこに生きる民の価値を

      見極めようとしていた

魔族相手の大戦争
その戦費を出せとかよ

無理言ってくれるぜ

        本来ならそれは

      シチーリではなく、彼の国

     ヤーマに対して求められたもの

      だがあろうことかヤーマは

   国としてではなくシチーリという個人に

   戦費の申し出に応えるように命じたのだ

国の懐は痛まずに
成り上がり者を潰す

腐れ王族どもの
考えそうなこったけどよ

     商業国家であるヤーマにおいて

       王族ではないシチーリが

    博打めいた投資と投機で成り上がり

      財界の一角を占めたことに

       危機感を覚えたのだろう

      ヤーマの王族は全力を持って
 
      シチーリ排除に動いていた

潮時かねぇ

         ぽつりと呟く

  間違いなく盗聴されている事を自覚しながら

   静かに諦めるかのような力ない声で続けた

所詮、王族でもない人間が
今まで栄華を誇っただけでも贅沢か

命あっての物種……
あとはせめて
どれだけ財産を残せるか

運と情けに
すがるしかないねぇ……

       それはいわば敗北宣言

     間違いなく聞いているであろう

     王族たちへ向けての言葉だった

         しかし――

なんてしおらしいこと
言うわけねぇだろ

ばーかばーか

     心の中でシチーリは悪態を吐く

そっちがその気なら
こっちは見限るまでだっての

腐れ王族なんぞに支配されてる
国なんぞ見捨ててやるよ

手切れ金代わりに
はした金はくれてやる

でもなぁ、大事な大事な
人材は、まとめて連れて
とんずらこいてやるさ

支えてくれる人の
居なくなった場所は
もろいぞ

たとえ商会だろうと
国だとしてもな……

      生まれ故郷を見限り捨てる

   それに罪悪感めいたものを覚えながらも

     一代で財を成した大商人として

   全ての損得勘定を成し遂げた上で決断する

保たねぇな、人間社会は

魔族との戦争に
勝とうが負けようがよ……

        今この時、数少ない

      人間社会の現実を知る者として

   シチーリは自分達の未来を選び取った

       まさに、その時――

      城前広場に集まった者達が

        一斉に歓声を上げる

来たか。ロイエ国初代国王にして
未だ現世に生き足掻く……

……不滅王、マルス

       シチーリの読み通り

    まさにこの時、ロイエ国国王は

  城のもっとも高みにあるバルコニーへと

        その姿を現した

…………

         言葉一つなく

      眼下の民を見下ろしながら

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