ドタバタと忙しい日々が続いて。

気づけば、ホワイトデーの当日はやってきてしまった。

ひかり

プロさーん! ね、ね、今日がなんの日か知ってるー!?

ひかり

ホワイトデー! ほらほらお返し待ってるよー、楽しみな顔して待ってるよー、かもんかもーん!

毎日元気はつらつなひかりは、事務所に飛び込んでくるなり言ってきた。

昨夜は事務所に泊まり込みだった僕は、うつぶせになっていたデスクから顔を上げる。

プロデューサー

う、うぅ……うん

ひかり

あ、あはは……………。って――プロさん大丈夫!?

空子

ぷ、プロデューサー、目の下にクマがすごいです……!

プロデューサー

はは……ここ最近まともに眠れてなくて。でもお返しは何とか用意したよ

ひかり

やったぁああー! プロさん大好きぃー!

バレンタインにみんなからチョコをもらったのだから、当然ホワイトデーのお返しは用意してきた。

気づけばアイドルたち全員が、僕の周囲に集まってきていた。

みんなの目がキラキラしているのは、今日がなんの日かみんなよく分かっているからだろう。

……いや、唯だけが一人、離れたところにぽつんと立っていた。

…………お返し、か

――結局唯は、既製品のキャンディーのセットをホワイトデーのお返しに配ることにしたそうだ。

落ち込ませてしまう結果になって、本当に申し訳なく思う。

唯にとって、きっと今日は苦い日になってしまっているだろう。

留奈

ひかり、ストレートすぎるわよ……る、留奈はお返しなんて、まったく期待なんてしてないんだから

ミユ

じゃー、なくてもええの?

留奈

ちょっと! も、もらえるものはもらうわよっ

つかさ

わくわくわく。プロデューサーは、わたくしたちに一体何をくださるのでしょう!?

ワイワイと騒ぐアイドルたちに、僕は苦笑を漏らす。

それから、机の下に隠しておいた大きな袋を取り出した。

プロデューサー

クッキーの詰め合わせ瓶と、ちょっとみんなに手作りのものを用意してみたんだ

僕はそう言って、順番にラッピング包装したプレゼントを渡していく。

反応は上々だった。みんな嬉しそうな笑顔になってはしゃいでくれている。

……そして最後に、唯の前に立つ。

プロデューサー

ほら、唯にも

え? ……私に、ですか?

唯は意外そうな顔で、僕を見上げてきた。

プロデューサー

当然だよ。唯も、僕にチョコをくれたからね

プロデューサー

ホワイトデーは自分がお返ししなくちゃって思い詰めていたけれど

プロデューサー

唯だって、女の子なんだから

プロデューサー

今日は、しっかりと僕からのお返しを受け取ってもらわないとね

あ……

僕が差し出したラッピング包装のプレゼントを、唯はおずおずと受け取ってくれた。

少し恥ずかしいことを言っている自覚はある。唯も、頬が朱色に染まっていた。

プロデューサー、ありがとうございます……それに、その指

プロデューサー

……はは。慣れないことはするもんじゃないね。唯の気持ちがよく分かったよ

少し前の唯と同じように、僕の指先はバンソウコウだらけだった。

もしかして……!

ハッと何かに気づいたのか、ごそごそと包装紙を開いていく。

他のアイドルたちも、僕からの贈りものを手にとって、口々に感想を言い合っていた。

ミユ

なープロデューサー、これ、なんなん? クラゲ?

ミユ

手作りマスコット-、えへへー

わたあめ……でしょうか。すきです

ひかり

ああっ、うさぎのマスコットぎゅうぎゅうしてるかえちゃんかわいいぃ!

これはうさぎではありません。わたあめです

千乃

違うよ? これは雲だよね。千乃、分かっちゃったんだぁ。えへへ

つかさ

プロデューサーが、わたくしの為にこんな立派なカニを……胸がきゅっとなって止まりません! 一生の宝物にさせてください!

八葉

カニ……? エビ? タコ、イカ……ああああ分かりませぇぇん

空子

えへへへ……これ、飛行機ですよね! プロデューサー、心のこもったプレゼント、本当にありがとうございますっ!

留奈

ふ、ふん、可愛いじゃない。大切にするわよ、この包帯人形……ふふっ

あーでもないこーでもないと、好き勝手な意見が飛び交っていて、僕は苦く笑ってしまう。

一応、全員に同じものを作ったつもりなんだけどなぁ……。

唯の方を横目でちらりと見ると、唯はプレゼントのマスコットを見下ろして、瞳を潤ませていた。

プロデューサー、これって

プロデューサー

一応、唯のが一番近づけたやつだけど……はは、全然僕も理想のできばえには届かなかったな、ごめん

プロデューサー

でも、ホワイトデーは僕に頑張らせてほしかったから

……

唯は軽く唇を噛み、ゆっくりと首を横に振ってきた。

見えます、ちゃんと。届いてます。すごく、可愛いです

マスコットを大切そうに、ぎゅっと胸に抱いて。

瞳の端に涙をにじませて、本当に嬉しそうに、唯が笑いかけてくれた。

ありがとうございます、プロデューサー

プロデューサー

喜んでくれたなら、良かった

ミユ

プロデューサー、それでこれって、結局なんなん?


ミユがもう一度聞いてきて。

僕と唯は、顔を見合わせて笑ってしまった。

その答えを知っているのは、唯だけだ。

ふふっ、本当にかわいい。
私だけの……

しろひぐまさん

目を潤ませて、僕からのプレゼントを見つめている唯は、やっぱり、本当にかわいい女の子なのだなぁと思う。

空子

えへへ。唯ちゃん、すごく嬉しそうですね?

空子

笑顔の唯ちゃん、とっても可愛いです!

千乃

うん。唯さん可愛いねぇ

うん

いつもなら、可愛いという言葉に照れて逃げ出す唯だけど、本当に嬉しそうにうなずいていた。

最終話 私の”かわいい”ができるまで

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