平成地獄絵図
等活地獄
『瓮熟処』
平成地獄絵図
等活地獄
『瓮熟処』
『瓮熟処』
おうじゅくじょ
そこは
八大地獄のうち
等活地獄における
三番目の小地獄。
浮世で生き物を煮て
食べた罪人が送られ、
鉄窯の中で豆を
煎るようにして
拷問をうけると
いわれている。
オイオイ!逃げるな逃げるな~♪
ほら~、そこの罪人!止まりなさい♬
ひぃ、何で追いかけてくるんだよぅ!
何ってここは地獄なんだから鬼ごっこだよ。
別に現世でもやっていたことだろう?
だって三途の川で奪衣婆(※1)が言ってたぞ!?
俺は自殺だから黒縄地獄行きだって!
なのになんで俺はこんなネチネチと嬲られるような…
※奪衣婆(だつえば)…三途の川岸にある衣領樹(えりょうじゅ)にいる水先案内人。罪人の衣服をはぎ取り、それを懸衣翁(けんえおう)に渡して衣領樹にその衣服を放り投げ、その重さで罪の重さを決める。
お前何も聞いてないのか?
等活地獄の16の小地獄すべてを経由しないと黒縄地獄へは行けないのだぞ?
因みに黒縄地獄や他の六大地獄ぜんぶにも16の小地獄は存在している。
よってお前の罪状だと32の小地獄を味わう事になる。
因みに一大地獄につき刑期は500年。
つまりざっと千年に渡る長いデスロードがお前を待っているのだ。
※一由旬…古代インドの距離単位でおよそ七キロメートルとされている。なのでここで指摘している距離は38万5千キロに相当する。
そんな
さあ、もう説明は済んだろう?
鬼の折檻のはじまりだ!
ぐぎゃああああ!
皮膚がただれ、
肉が裂け、
骨が捲れるまで棍棒で殴り倒される楊金満。
その後、
ボロ雑巾のようになった彼が連れてこられたのは地獄の鉄鍋の前であった。
やめろ!
お願いだ、これ以上ひどい事しないでくれ!!
これも俺たちの仕事なんだ。
悪く思わないでくれ。
ただし、俺たちはこれっぽちもこの仕事に罪悪感をかんじたことなんてないけどね。
そういう事!
因みに地獄は下層に行けば行くほど強烈だから。
俺たち等活地獄なんてウォーミングアップぐらいに思っておいた方がいい。
わあ、それ教えてあげるなんてやさしい!
渡る世間に鬼は無しってやつ!?
まあね。
ただ、こいつ死んでるわけだからそれ言うなら鬼の目にも涙が正しくないか?
どっちでもよくね?
さっさと片付けちまおうぜ
ああ、そうだな。だって
こいつの他にも懲らしめなきゃならない悪い奴はたくさんいるからね。
グツグツと煮える鍋。
響く楊の断末魔の声。
絶叫するのにも疲れ果て、
その薄れゆく肉体と意識の中で楊は何かなつかしさを感じてこうつぶやく。
不思議だ。
懐かしくていいにおいがする。
これは…
ワンタンスープ!?
マタ会エタ
お前は、あの時の寸胴鍋なのか?
ごめんよ
。お前ごと俺は全部不意にしてしまった。
お前が俺にくれた生きるチャンスの何もかも
イイノ。アナタ生キル事ニ疲レテイタ。ソシテ、ワタシモ現世ニ残リ続ケル意味ヲ見出セナカッタ
ああ、そうだったのか。
全部俺のせいだね
違ウ。アナタハ私ガ前世ニ存在スル意味ヲ与エテクレタカラ。
ありがとう。
その言葉で救われたよ。
このまま燃やし尽くしてくれ。
君に焼かれるなら本望だよ
すでに肉が溶解して骨の身になっている楊。血も涙も一滴残らずスープに溶け込んでいく。
一方で寸胴デモニキュリオは自分のスープと楊の血肉が一つに混ざり合っていくことにエクスタシーを感じていた。
アナタノ熱ヲ感ジルノ
僕もだよ。
君と混ざり合って、
地獄に来て初めて生を感じるなんて。
死ぬまでバカは直らないってやっぱ本当だな。
あははは
今度ハ一緒ニ人間ニ
ああ、必ず人間に生まれ変わろう。
たとえどんなに時が流れようと。
僕はこの地獄を全うして見せる
血肉が混ざり合っていく恍惚。
こうして血の一滴まで絞りつくした地獄のワンタンスープが完成した。
おお、美味ええ!!
やっぱ活きの良い罪人からとれた出汁は最高だなあ。
血沸き肉躍るとはまさにこの味の事!!
アハハハ
やがて獄卒達から出た糞尿が川に流され、
新しい地獄へと楊の魂を誘っていくのであった。
そして寸胴はいつか互いに人間に転生する事を夢見て、
罪人たちの浄化をおこなっていくのだが、
罪人ヲ殺メルッテ気持チイイ
いつしか訪れる人間転生に先立ってか、
化その拷問における溶解にセックスと同等の恍惚を感じているとは獄卒達はおろか本人も知る由はなかった。
ご臨終