プロデューサー

ふぅー。あともう少しで企画書ができるぞ。この企画は絶対モノにしたいから、がんばらないと!

プロデューサー

ちょっと……肩がこってきたな……

空子

プロデューサー? お肩をもみましょうか?

プロデューサー

ん? ああいや、アイドルにそんなことさせるわけにはいかないよ

空子

いいえ! その企画だってわたしたちのために作ってくれているんですから! 肩くらいもみます! えへへ、背中出してください?

プロデューサー

あ、ああ……。空子はたまに強引だな……。ありがとう、気持ちいいよ

空子

えへへ……マッサージ、もっとうまくなるよう練習しますね!

はぁ、癒される。

空子が一生懸命肩をもんでくれると、凝りも疲れもみるみる消えていくみたいだ。

空子

どうですか? プロデューサー?

プロデューサー

……空子は本当に優しいね

空子

えっ? なんですか? そんな急にしみじみと?

プロデューサー

いや、あらためて思ってさ。空子の優しさはきっとたくさんの人を救うよ。まるでヒーローみたいだ

空子

ひ、ヒーローですか? わたしが? わたしそんなにすごくないですっ

ううん。空子はすごいよ

空子

ゆ、唯ちゃんっ?

この間も、急に大雨が降ったでしょ? わたし傘を持ってなくて、駅で困ってたんだ

そしたら空子が傘を持って迎えにきてくれて。どうしてわたしが傘を持ってないなんてわかったんだろうって、びっくりしちゃった

空子

だって、唯ちゃんあんまり傘を持って歩かないですから。朝のお天気からすると、きっとお家に傘をおいてきちゃっただろうなって思ったので

プロデューサー

へぇ、空子らしいな。普段から誰かの身になってものを考えないと、できないことだ

空子

そ、そうなんですか……? 普通だと思うんですけど……

千乃

ううん? 普通じゃないよ?

空子

千乃ちゃんっ?

千乃

千乃もね? この間、お菓子がなくて事務所でくたーってしてたんだぁ。そしたら空子さんがきて、冷蔵庫にあるものでぱぱってごはん作ってくれたんだ

千乃

千乃ね? ふわふわのオムライスが食べたいなーって思ってたんだよ。で、いい匂いだなって見ると、本当にふわふわのオムライスだったの!

千乃

空子さんは魔法使いかな?

空子

魔法使いだなんてそんなっ。ただ、千乃ちゃんが卵料理を好きだって知ってましたし、お菓子ばかりじゃ良くないなって思っただけで……

そうやって思えるところが、すごい

空子

え、ええっ……。そうなん、でしょうか……?


唯も千乃もにこにこと笑ってうなずくから、空子は恥ずかしそうに下を向く。

プロデューサー

いつも、迷子の子がいればすぐに声をかけにいくし、重そうな荷物をもったおばあちゃんがいれば助けてあげる。やっぱり空子は街のヒーローだよ


そういうと、やっぱり空子は両手をふって否定する。

空子

ひ、ヒーローなんかじゃないですってばぁっ! むしろ助けられてるのはわたしの方です!

プロデューサー

空子の方?

空子

そうですっ!

プロデューサー

うーん、そうかなぁ……


僕に続いて、唯と千乃も首をかしげたその時。

事務所の外から、男の子らしき小さな泣き声が聞こえてきた。

空子

……あ、男の子が泣いてます! わたし、行ってきます!


空子はそれを聞きつけるなりソファを立ち、事務所を出ていってしまう。

だから僕たち三人は顔を見合わせ、頬をゆるませる。

プロデューサー

はは、早速行っちゃったね

さっき自分はヒーローなんかじゃないって言ったばかりなのに。

きっと勝手に体が動いちゃうんだろうな。

空子だけに任せておくのもいけないから、僕たちも行こうか

*    *    *

事務所をでると、悲しそうな泣き声が聞こえた。

転んだのか迷子なのか、鼻をすすりながら嗚咽をくり返す声を聞くと、空子じゃなくても心配になる。

思わず駆け足になって泣き声のもとに急ぐと、少し様子がおかしい。

千乃

おかしいねぇ、男の子の泣き声じゃないよ?

確かに、そうだね。男の子じゃなくて女の子だったのかな?

千乃

うーん?

千乃がゆっくり首をかしげる。

その一方で何かを察した唯が真顔になった。

これ、もしかして……?

泣き声の主は角を曲がったところにいる。

僕たちは走って角を曲がると、目の前の光景にあんぐり口を開けた。

空子

うっ……うぅ……うえぇ…………

なんで空子が泣いてるのっ!?

子ども

よしよし。お姉ちゃん? だいじょうぶだよ?

千乃

どうして空子さんが逆になぐさめられてるのかな?

これはどうしたことだ!?

最初、泣いていたのは間違いなく男の子だったはず。

頬に涙のあともある。そもそもその声を聞いて空子は駆け出したのだ。

なのになぜ!?

プロデューサー

そ、空子? いったいどうしたの?

空子

ふぇ……だって……。この子のお母さん、入院しているって……

空子

かわいそうで…………

子ども

ただの風邪なんだよお姉ちゃん? ちょっとさびしくなっちゃっただけなんだよ? いいこ、いいこ

空子

うぅ……ありがとうございます……

プロデューサー

なんで逆に慰められてるの!?

どうやら空子は泣いている男の子を見て、感情移入するあまり、本人を差し置いて自分の方が悲しくなってしまったらしい。

普段の空子なら笑って子どもをあやすんだろうけれど、何らかのタガが外れてしまったようだ。
どれだけ心優しい子なんだ……。

しかしそのおかげもあってか、すっかり男の子は泣きやんで、反対に空子を慰めてくれている。

*    *    *


やがて、男の子は元気を取り戻し、今からお見舞いに行くんだと去っていった。

空子

ぐす……。す、すみません……。つい気持ちが入り込み過ぎちゃって……

千乃

よしよし。もう平気だよ?


まだぐすぐすしている空子も、千乃に頭をなでてもらって、だんだん落ち着きを取り戻す。

空子

……えへへ、もう大丈夫です! ご心配をおかけしました!


ぱっといつも通りの笑顔を見せて、もう心配はいらないようだ。

空子

わたし、一度泣きのスイッチが入っちゃうと止まらないんですけど、そんな滅多にはないですから! えへへ

よかった。

でも、そうか。空子が自分はヒーローなんかじゃないと言った意味が少しわかった気がした。

すると。

ピリリリリリ。僕の携帯が着信を知らせた。

プロデューサー

……はい。あ、これはお世話になっております! はい! はい……

プロデューサー

……あ、はい……。そう、ですか……。残念ですが……はい、わかりました……。……はい、失礼します……


僕は力なく、切れた電話を下におろし、ため息をもらした。

千乃

プロデューサー? どうしたの? なんの電話?

プロデューサー

ん、あ、いや、さっき企画書を作ってた案件なんだけど、ほかの事務所で決まっちゃったって

プロデューサー

はは、どうにかして勝ち取りたい案件だったんだけど……。僕の力不足だな……。ごめん、みんな

そ、そんな! 謝らないでください! プロデューサーは一生懸命やってくれましたから!

千乃

そうだよ? プロデューサーも千乃がよしよししようか?

プロデューサー

はは、ありがとう。そう言ってくれるだけで救われるよ


心配そうに見つめてくる唯と千乃を見て心が落ち着く僕だったけど、

空子

……ひっ、ひぐっ……

プロデューサー

空子!? なんで空子が泣くの!?

空子

……だって……プロデューサーがっ……あんなにがんばったのに……悲しくて……う……うぇぇ……

プロデューサー

空子!? 僕は大丈夫だから! ほら! 全然平気だから! ね! だから泣かないで!

空子のスイッチは完全に切れていたわけじゃなかった!

僕は大事な仕事を失ったばかりだというのに、力いっぱいガッツポーズを決める。

しかし、一度泣いたことでスイッチが緩んでしまったのか。

再び泣きスイッチが入ってしまった空子はなかなか泣きやんでくれない。

空子

プロデューサーがっ……がんばってくれたのにっ……ひっ……

プロデューサー

いやいやいや! 大丈夫だって! その、実は僕全然がんばってなかったから! うんそう! やばいくらい適当だったし! ね!

え……適当だったんですか……?

プロデューサー

え!? いやいや適当なわけないでしょ! みんなのためなんだから必死だったよ! 昨日だって徹夜までして……

空子

やっぱりぃぃ……ふぇぇ……

プロデューサー

嘘! 嘘だよ! 昨日はめちゃくちゃ寝たなぁー!? 寝過ぎて大事な思い出とか2~3個忘れちゃったなぁー!?

千乃

えへへ、プロデューサーも千乃のこと言えないね?

プロデューサー

いや、さすがに千乃ほど寝てないよ!?

空子

やっぱり寝てないんですね……ふぇぇ……

プロデューサー

空子!? 待って! ああ、これもうどうしたらいいんだ!?

空子

プロデューサーが困ってます……ひっ……かわいそぅです……

プロデューサー

これもダメかぁぁぁああああ!?

そんなこんなで、空子を泣きやませるのに十数分かかって。

スイッチの入った空子の前で、あまり弱いところは見せないでおこうと心に誓った……。

春宮空子:世界を救うヒロイン

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