集合場所の浅里丘はまさしく田舎の原っぱだった。


緑の絨毯の上に小さな団子屋がある。

工藤 柊作

…………

江岸、水澤、春河と共に着いた俺はそのシンプルで、且つ美しい光景に声が出なかった。



水澤と春河は早速団子屋の屋台主に挨拶しに走っていった。
江岸は俺の隣で優しく目を細める。
俺は目を閉じ、草の匂いを運ぶ風を体じゅうで感じた。

少しずつクラスのみんなが集まってくる中、俺はふと、屋台の前で旨そうに団子を頬張っている人が気になった。

見覚えがある。

いや、というより誰かは分かりきっているが…。

工藤 柊作

…………

俺はさる人物に向かって歩いていった。

江岸が慌ててついてくる。

足音に気付き、さる人物が顔をあげる。
その人はーー

浦部 凛

おやぁ?奇遇ですねぇ


誰であろう、浦部先生だった。
何気に団子を手に持つ姿が似合っていた。

工藤 柊作

なぜ、ここにいるんですか

浦部 凛

なぜでしょうねぇ


ふくろうのように首をかしげる先生。

浦部 凛

私は毎日浅里丘で昼食をいただいているのです。私がこうしてこの世に存在していられるのもこの丘の情け……

神を拝むように屋台主に一礼する先生。


屋台主は慣れたように笑いながら団子をもう一本差し出した。


両手に団子状態の先生はニヤニヤしながらこちらを振り返る。

浦部 凛

これぞ人徳……

工藤 柊作

100%違うと思います


真顔で切り捨てる。

浦部 凛

ところで、今日は1組の生徒が多いですねぇ。学校へのストライキですか?


今度は江岸が笑顔で答える。

江岸 梨奈

今日は工藤くんの転校を祝ってみんなで一緒に昼食をとる事にしたんです。授業は午前中で終わりですから

浦部 凛

ほうほう!

浦部 凛

それは実に素晴らしい。どれ、それに私もご一緒させていただきませんか?

江岸 梨奈

工藤くん、いいよね?

江岸は横目で俺を見る。
浦部先生は苦手だが、特に断る理由もない。


俺は小さく頷いた。




すかさず、先生は

浦部 凛

奇跡が起きた!

と叫びながら屋台主を仰ぎ始めた。

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