これまでのあらすじ
近未来型煎餅業界の
リーディングカンパニー『べいせん』から、
真円煎餅の企業秘密を盗み出した
輪玉 円丸《わだま つぶらまる》。
しかし、幸か不幸か、逃走中のさなかに
ロボット掃除機と化したシンプルと出くわしてしまい、
敢え無く昇天してしまう。
一方、重要機密事項を外部の人間(?)に奪われた
『べいせん』の社長、慎二《しんじ》は社長職から退陣。
この危機に『べいせん』の会長、喜一《きいち》は
かつて遺産を分けてハワイへと飛んだ三弥《みつや》を
社長として呼び戻すことを決意。
三弥《みつや》は社運をかけて、新作開発へと乗り出す。
果たして、小奴らの行く末やいかに?
いらっしゃいませ。
新商品の開発か……。
腕がなるぜ!
ターンオーバー
……って今度は煎餅かよ。
……。
しかも、シンプルと俺おんなじじゃねーか。区別つかんわ。
……。
もしかしたら、俺の海苔の下にはケチャップが挟まってるかもな。
……。
……おい、どうしたシンプル。
さっきから震えてるじゃないか。
……思い出したんだ。
何をだい?
ノンケチャは覚えてないよね?
バーガーになる前の事。
なんだって?
バーガーになる前?
……ノンケチャと僕は
バーガーになる前は、
アンパンだった。
アンパン!
そして、その前は煎餅だった。
へー。
じゃあ、その前は。
……ない。
へ?
僕らは煎餅として始まったんだ。
そうなのか、俺達のスタートは煎餅から始まったのか。
煎餅の魂は複雑に枝分かれして、
様々な殻で魂の経験を積み、
そして煎餅へと戻ってくる。
なんか急に小難しい話になったな。
『"たま"しい』って言うからか、
その殻として選ばれるのは、
全て『丸』に関係しているみたいなんだ。
なんだそりゃ。
……まるでオヤジギャグだよね。
ん?
じゃあ、シンプルが人間の女になった時は、俺の時みたいに名前が『丸』とか『円』とかだったのか?
丸々と太っt……
やめろ。
そして、いま再び煎餅として戻ってきた。
そうか。
じゃあ、これが俺達の本当の姿なんだな。
……魂の行き着く先さ。
な、なんでそんなに暗いんだよ、
シンプル。
声色まで変えてさ……。
……もう、終点なんだよ。
え?
全ては素晴らしい煎餅として産み出されるための布石でしか無いんだ。
……言っていることが良くわからないぞ、シンプル。
僕の方がノンケチャより先に生まれた。
……。
だから、僕のほうが先に……。
……。
……。
おいおい、冗談はやめてくれよ。
これまでみたいにまた戻ってくるだろ?
……ニコッ。
微笑むシンプルのその瞳は、
悲しみの色で満ちていた。
……と、その時。
あっ!
……手だ!
クソ!
シンプルを先に行かせてたまるか!
俺を取れ!
ズイッ!
その存在を主張するノンケチャ。
身を挺してシンプルをかばう。
……しかし。
主張の強すぎる煎餅は
避けられてしまった。
くそっ!
シンプルを離せ!
……ムリだよ、ノンケチャ。
諦めんなよ、シンプル!
……運命で決まっているんだ。
シンプル、オマエそれでいいのかよ!
……うん。
え……。
ずっと言ってきたでしょ。
その殻の運命を受け入れるって。
あ……。
楽しむだけじゃない。
試練だって受け入れなきゃいけない。
最後を目の前にして
少し尻込みしちゃったけど……。
僕は満足してる。
待てよ、シンプル……。
俺、まだ話し足りないことが……。
今まで楽しかったよ、ノンケチャ。
……シンプル?
嘘だよな?
また、ひょっこり出てくるんだよな?
ゴージャス煎餅で俺を脅かしてくれるんだよな?
シンプル……
シンプルーーー!!!
止めどなく溢れ出る涙に、
ノンケチャは身も心も濡れそぼった。
こうして、
程よい塩味のぬれ煎餅が
出来上がり
『べいせん』は
再び業界を席巻しました。
おしまい