……ふぅ

来週、娘の結婚式か……全然実感わかないな

お前も、そう思うだろ?

誰もはめなくなってもう20年あまりか……時間ってやつは本当に早いな

よぉ、俺はちゃんと父親できてたか?息子ならともかく娘なんて残すもんだからメチャクチャ苦労したぞ。服とか親戚からかき集めたし

あいつの運動会の映像か?ちゃんとビデオに録ってある。勉強はできないくせに走るのは速かったな

そのまま元気に成長してくれて……まぁたまに道を踏み外しそうにもなったが……いい娘に育ってくれた

…………

…………なぁ、お前は『  』についてやってくれないか

もう何年も使われていない指輪だ、今更質屋で売れると思ってないし売る気もない。ただ、恥ずかしながら娘に持たせるにふさわしい嫁入り道具がないんだ

お前なら、まぁ見栄えは微妙だが……あの娘は喜んでくれるさ

大丈夫。俺は何も寂しくない。俺の結婚指輪もあるし、それに『  』には悪いが

君と過ごした時間、俺は全部覚えてるから

だから、何も寂しくないんだ

……ふぅ

お姫様か……昔は憧れたこともあったけど、いざなってみると疲れるな

……いたっ!

…………えっ?

…………『  』!!

アナタは……

『律歌(リツカ)』!!

おとう……さん!?

ようやく会えたな

お父さん?お父さんなの!?

試しに名前呼んでみ?

…………

亘(わたる)……お父さん

正解だ

なんか信じられない……なんでお父さん若返ってるの?

最初に聞くのそこ?

これでも動揺してるんだよ。なんか久しぶりだしさ。会う予定してたのにね

ああ。会う予定をしてて、その途上で俺もお前も死んじまった。おかげでこんな世界にこんな形で転生しちまった。俺は平民に、お前はお姫様にな

なんかお父さんがお姫様って言うとウケるね

ほっとけ

でもさ、これ本当迷惑。私もうすぐ結婚するはずだったのに、彼とは離れ離れだし何故かまた勉強するはめになるし

あの勉強嫌いの律歌がな……くくっ

下々は上の苦労を知らないって言うけど、本当ね

姫の暮らしはどうだ、律歌?

もう死にそう。礼儀作法とか経済の勉強とか頭痛いし、ここの『お父様』が晩さん会とかとにかくパーティに連れまわすし……あの頃は良かったなって、今なら分かるわ

前の記憶があったから、多少はなんとかなってるけどね

そっか

そういえば、お父さんどうしてここに来たの?今のお父さんの身分じゃ入れないはずなのに

そうだ、どうしても渡さなきゃいけない物があったからさ

それって?

DEAR. RITSUKA……

これ、開けていい?

もちろん

……これちょっと錆びてるけど、お父さんの指輪?

俺のじゃねえよ。母さんの指輪だ

いいの?これ母さんの大事な遺品じゃ……

お前に持っててほしいんだよ。もう何年も使われてない指輪だけど、それは確かに母さんのだ。子離れしなきゃいけない俺の代わりに娘を守ってほしいってな

ケースだけは、それっぽく新調したけどさ

……ありがとう

あ、そういうことか

どうかしたの?

律歌、ちょっと指輪貸してくれ

ほらっ

…………わぁ

きれい……

指輪としてつけるのが無理でも、こうすれば身に着けることはできるだろ

…………ありがとうっ

お父さん……お父さんっ

ああ、寂しかったよな、律歌

ああ


ようやく抱きしめることができた。

俺の『娘』を
俺の一番の宝物を


体を震わせて、声を上げて泣く律歌の頭を優しく撫でてやる
子供の頃からそうしてきたように


最愛の娘との再会を、俺もただ噛みしめる。
大事に包み込むように、優しく強く抱き寄せた。

お父さん、私が小さい頃に言ったこと覚えてる?誕生日祝ってくれた時にお父さんが急に泣いちゃったやつ

ああ、何故だか鮮明に思い出せるよ

私も。あの時さ、大きくなったらお父さんの分までいっぱい働いてお父さんを幸せにするって言ったんだよね

それを、今なら果たせると思う

…………

私、いっぱい勉強してこの国を治めるの。お父さんだけじゃない、たくさんの人をたっくさん幸せにするように。前世で合った人、私を助けてくれた人への恩返しをしたいの

……ああ。できるさ律歌なら。俺と母さんの、自慢の娘だもんな

……うんっ。私頑張るからね!

なぁ、どこかで見てるか?

俺達の娘は、こんなにも立派に育ったぞ?


強くて優しくて、愛しい娘に。





きっとお前も、今どこかで笑ってるよな?

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