本当かどうかわからない話がある。




100年前、シャル湖に現れた巨大な竜。

それを風の魔女と預言者が倒したという話。

その後2人はパン屋として静かに暮らしたという話。




その話は絵本になって、子供たちに夢を与えている。










 
アタシはその話の真実を知っている。
 




風の魔女の名はナタリー・ローレン

預言者の名前はサテン

ふたりは夫婦だ。

そしてアタシの曽祖父母。

ナタリーはアタシが看取った。

最後の言葉はこうだった――

   

ナタリー

カノン

あんたに一つ伝えておくことがある。


 
死の間際、ナタリーはアタシに衝撃の事実を伝えた。

 

ナタリー

あんたは風の魔女と預言者のひ孫だ。

大きな力を受け継いでいる。

カノン

大きな力?

それって、何なの?

ナタリー

世界を操るほどの大きな力。

偶然で必然に、あんたの前に現れる。


 
意味は、よく分からなかった。



だけど、ナタリーは真剣だったから、

アタシも真剣に聞いていた。
 

 

ナタリー

使い方を誤れば――

カノン

誤ると、どうなるの?

ナタリー

…………。

ルエルの森へ行くんだ。
そこに、答えがある。


……[万物の力]というものを覚えているな?



これが、転生を繰り返した。

再び封印する必要がある。

本当ならあたしが行くところなんだけどね、もうこの歳だ。

カノン、あんたなら出来る。




――頼んだよ。








   

   


   

ルエルの森は鬱蒼としている。

誰も近づかないのか、人の気配を感じない。
 

カノン

こんなところに、何があるというの……?

森の道。

緑の道。

初めて足を踏み入れた、知らない道。



風の魔女の遺言がなければ、絶対に来ていなかっただろう場所。

 

カノン

だけど不思議。

風が行く場所を教えてくれているよう。


アタシが迷わず歩けるのは、不思議な力のおかげだ。

そういうことが、なぜかわかる。

おや……?


この森で、初めて会う人間。

警戒するべきか否か。



アタシは立ち止まって、彼の言動を探った。

こんなところにお嬢さんが。

道に迷いましたか?

ここは危険です。町にお戻りください

カノン

あなたは……?

私はバード家の用心棒、ダウラス。

あなたは?

カノン

……風の魔女の後継。

カノンと申します。

風の魔女の……?

ご冗談を。


……お戻りなさい。


さもないと、私はあなたを捕まえなければならない。

カノン

なぜです?

古くからのバード家の掟です。

この森に立ち入るものは捕らえろと。

カノン

アタシは風の魔女の遺言によって――

戻れと言っている!!

カノン

…………!!

 

その気迫に押されて、アタシは引き返した。

彼は刀を構えたから。

殺されてはたまらない。

アタシの役目は……




そう、アタシの役目は……

カノン

万物の力を封印する



幼いころ、ナタリーに繰り返し聞いていた物語。

風の魔女と予言者。

万物の力に選ばれた少女と恋に落ちた少年との悲劇。

それは本当の物語だったのだと。


繰り返してはならない。





アタシは風の魔女の後継者。


万物の力を封印して見せる。

メンカクーン

やーっと見つけたよ。

カノン

あなたは?

メンカクーン

ヒトに名前を聞くときは、まず自分からって言わないかい?


まぁいいや。

僕はメンカクーン。



キミ、ナタリーの子孫だろ?

待ってたよ。
 

カノン

アタシはカノン。


……ナタリーを知っているの?

メンカクーン

知っているとも。

僕はナタリーに作られた、この森の妖精だからね。



万物の力を探しているんだろう?

……さぁ、早く行こう。

バード家の連中が厄介だ。

メンカクーンの案内で、アタシは進んでいく。

万物の力はすぐそこだ。










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