一話:死より始まる争奪の儀

眼前に現れた大型トラック!

死んだーーー!

突然の死。あっけなさすぎる幕切れ。俺の人生は一体何だったんだ。

…………

…………?

なんだここ……気持ち悪い風景……一体ここは?

よく見ると、自分の手も、足もある。俺は、生きてるのか……? 

うけけ。そんなわけ無いでしょ、お兄さん。お兄さんは死んだの。ここは地獄の隙間の、なんかふわふわした所。

オイラは地獄からやってきたオグルちゃんだぞ。お兄さんみたいな不幸な魂を地獄に引きずりこんで、食べちゃうんだ。うけけけけ。

む、ムグー地獄……! 勘弁して、俺にはまだやることあるんだー!

あらそう……

死んじゃったのに、今更どうにかできるわけないでしょぉぉ

……でもぉ、どうしてもと言われたら考えてあげなくもないよお。

何でもいい、助けてください!

じゃあ「転生」試してみるぅ? 誰かの肉体にお兄さんの魂を重ねることで、現世に戻るチャンスを得るんだ。

誰か……? なんでだよ、俺自身に戻りゃあいいだろうがよ。

お兄ちゃんの肉体は事故でぐちゃぐちゃになっちゃったけど……

改めて言われるとキツイ……!

転生でも何でもいい、生き返る手段があるならやらせてくれ! 頼む!

そんなに現世に興味があるのかな。

あったりまえだろ! 戻らなきゃ、俺は……

一郎! 学校から連絡あったわよ。また喧嘩したんですって? あんたはどうしていつもそう……!

うるせえな! 俺の闘争本能が叫んでるんだよ。戦えってな!

そのわりにはボコボコにされて泣いていたと聞いたが……

え? そこまで事細かく説明されてるの?

兄ちゃん……

ウーン改めて思い返すとろくでもない人生!

でも関係ない……! 会わなきゃいけないんだよ。あいつに、弟に!

熱いね! 魂の輝きを感じるよ。そしてその一番白熱してるタイミングでいただくのがウマイ!

今なんと?

空耳だよ! そうと決まれば行った行った! ほら、あとがつかえているから早く早く。

行けと言われましても、あの、どこにも出口が無いような。ほら、ここは足場だけ浮かんでてて、周りは真っ暗な闇で、

高いところに立たされてる感じですごく怖いんですけど、あの、ちょっと。

いいからここから落ちるんだよおお。

いや、死ぬからね!? やめて!? 

忘れたの? もう死んでるんだよおおおお!

うわあああああ
どんなVRゲーも顔負けの圧倒的な浮遊感が襲う俺の体、そりゃそうだよな、リアルだもんこれ。リアル。こんなふざけた展開がリアル? ……勘弁してくれたしゅけててえええええええ

あ……

チチチチチ……窓から、鳥の声。
柔らかな日差し、白い病室。

俺は、生き返ったの……か……? 今度こそ現実……?

そして、俺の、この姿。

このカッコ……これが……俺? 何だ、小学生じゃんかよ。

でも、ふふふ……

やった! 復活したんだ。やー、無残に死んだと思ったからなー! 命があるだけ儲け儲け、姿形が違うのはまあ些細なことってもんさ。

ようし、そっさくこんな病院おさらばして俺の家に帰るぜ!

そいつはどうかニャン?

にゃばべぁ!? 猫!

あんまし意味もなく歩き回るのはオススメしないわよん。ねえ、「お兄さん」。

しゃべる猫……
も、もしかしてお前……さっきの悪魔。

がおー オグルちゃんだぞ。

にしし、お兄さん。何の制約もなく転生できると思う?

お兄さんには一つ、試練を乗り越えてもらいます。

試練

お兄さんは、その子供の肉体を乗っ取った不自然な状態。簡単に周りからバレて、転生の存在を世間に広めるわけにはいきません。

そうね……2日間。2日間、周りからバレずにその子の振りが出来たら。魂は肉体に定着し、もはや誰にも分かつことはできなくなるでしょう。

それまでにバレたら?

魂が吹き飛んで粉々に消えるニャン。

こなごな!?

さあお兄ちゃんはこの試練を乗り越えられるのかニャン!?

やめていじわるしないで!

オイラがいじわるしてるんじゃにゃーよ。ちゃんと守らないと、肉体と魂が馴染まないんだから。 必要なことなの。

うまいこと生き返ったと思ったら、とんでもない落とし穴が待っていた。2日間、俺の正体を隠し通さないといけないって? バレたら俺の魂は粉々になって消滅? なんてこったい。

……まあ、でも落ち着いて考えたらそんなに難しいことじゃない。2日間、誰とも会わずにおとなしくしてたらいいんだ。

そうとわかればこんなところはさっさと脱出して、人のいなさそうな場所に行くぞ。サッホイサッホイ

(あっ扉が。誰か来る……!)

…………

にゃあ。美人――

陽太(ヨータ)……よかった……!

ふわり。腕が覆いかぶさる。暖かな抱擁。

(うわ、うわわわ……)

お姉ちゃん、心配したん、だから……!

女の子は、目の端に涙を浮かべながら、ずっと俺を抱きしめていた。いや、俺じゃない。俺の、体を。

女の子の熱を感じながら、まあ、その、復活してそうそうこんな目にあうなら転生も悪くないな、そんな風に思った。

脱出しそこねたけどね!

ほんとによかった――

この子は、一体誰なんだろう。

続く……

01 死より始まる争奪の儀

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