暗幕を開くと同時に、柔らかい光が漏れ出す。厚い暗幕の奥は暖かい空気に包まれていて……
お邪魔します……!!
暗幕を開くと同時に、柔らかい光が漏れ出す。厚い暗幕の奥は暖かい空気に包まれていて……
いらっしゃいませ
ぎゃっ!?
……ぎゃ?
あっ、すみませんっ
いいえ、こちらこそ驚かせてしまったようで申し訳ありません。
ふわり、柔らかく笑う男性は、優しい声音でこう続けた。
ようこそおいでくださいました。
さてお客様、本日はどのようなご用件で?
あ、いえ、用というか、お聴きしたいことがあって
はい、なんでしょう?
この近くに、『時間屋』というお店がありませんか? 探しているのですが、土地勘がなくて迷ってしまって
……当店が時間屋でございます、お客様
……そう言われて、改めて男性をみる。
するとすぐに、胸元に『時間屋店主 時屋吉野』と書かれたプレートが付けられていることに気づいた。
……保育士さんみたいに可愛らしいプレートだ。けれど店主の顔は作り物みたいに綺麗で、そのアンバランスさが可笑しく、同時にあまりに整っていてすこしの恐怖も覚えた。
……此処が、『時間屋』なんですか?
改めて、店内を見渡す。
壁一面に物がぎっしり詰まっている。本や時計が多いけれど、用途のわからないものも多い。
時計が柔い光を反射させて煌めいている。暗いようで明るい、不思議な雰囲気のあるお店だった。
そうですよ。表に看板もあるのですが、お気づきになりませんでした?
……気づきませんでした
でも、よかったです、辿り着けて
祖母の頼みで来たんですけど、時間屋さんの詳しい場所まではわからないからとりあえずこの街に行きなさいと言われて
それは大変でしたね。此処、とってもわかりにくいからいい加減どうにかしてくれ、とお得意様もうるさくて
ほんとでも、みつかってよかったです
黒猫を追いかけて、此処まで来たんですけど……
あぁ、シャルですね、其方に
指さされた方へ視線を移すと、柔らかそうなクッションの上で丸くなっている黒猫が居た。
みゃあ~
此処の猫だったんですね
ええ、看板猫です
……商店街、静かだったでしょう?
シャルの気まぐれが貴女を此処まで引き連れてきてくれたようで、よかったです
ええ、人とまったくすれ違わなくて
……この街の時を、頂きましたからね
え?
いいえ、すみません、こちらの話です。話を戻しましょう。改めて、本日はどのようなご用件で?
言われて、頭の中を整理する。伝えなければいけないことをしっかりまとめて、私は口を開いた。
時を、買いに来たんです
第三話へ、続く。